フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さんのフィリピン・レポート。
ちょっと古い話になるが、2009年8月末、大統領顧問代行(国家安全保障担当)を務めるチャベット・シンソン前南イロコス州知事(68歳)が暴行を働いたとして内縁の妻チェ(35歳)に告訴された。
シンソンは17年間、関係を続けてきた内縁の妻の不倫現場を発見し、チェとその浮気相手の男に暴行を加えたのだ。
妻に浮気された男は「頭に糞を載せている」?シンソンは本妻とはすでに別れているが、フリピンの法律では裁判所の判決がなければ離婚(アナルメント)できないので、チェとは内縁関係のままとなっていた。
当のシンソンは、フィリピンの刑法では「妻や夫の不倫現場に遭遇して逆上し、暴力を働いたとしても罪にはならない」という規定を盾に無罪を主張している。
チェは18歳の学生時代にシンソンに出会って以来長く関係を続けていたが、もともと身持ちはそれほど堅かったわけではないらしい。一方のシンソンも女出入りが激しく、チェにとってみれば浮気はお互い様ということのようだ。
しかしフィリピンでは、妻やガールフレンドの浮気は反道徳的とされ、世間から非難を浴びる。妻に浮気された男は「頭に糞を載せている」称され、恥ずかしくて世間に顔向けができない。
その一方で、男の浮気は性(サガ)あるいは甲斐性として容認される。もちろん妻からはとことん絞られるが、結局は元の鞘におさまる。
シンソンはエストラーダ元大統領の不正を暴き、失脚に追い込んだことでも有名な強気の政治家だが、この事件で世間の笑いものになってしまった。
フィリピンではいまだに「姦通罪」という犯罪が存在するが、これは女性の不倫にのみ適用されているようだ。
一般に、夫あるいはボーイフレンドが浮気した場合、妻は浮気相手の女を探し出し、「夫に手を出すな」と談判する。場合によっては取っ組み合いのけんかになることもある。夫はそれを見ていて、喧嘩に勝った女のほうについていく。
一方、妻あるいはガールフレンドが浮気した場合、夫は逆上して妻に暴行を加えることも少なくない。すなわち、不倫をして責められるのは常に女なのだ。不倫の責任は男にあるとされる日本とは逆だ。
これは不公平ではないかと、相棒のジェーンに聞いてみたところ、「男はいつもちゃらんぽらんで女のケツを追いかけるものなのだ。だから理性のある女が自分あるいは相手をコントロールしなければならない。だから不倫があった時は常に女に責任があるのだ」と話していた。
日本人男性には、間違っても人妻に手を出したりしないよう気をつけてほしい。
(文・撮影/志賀和民)