まずJAL。JALの場合、円安が燃油費の上昇などを通じて、業績にマイナスに働くという事情がある。一方、この7月にはANAとともに、これまで下がり続けていた国内線の運賃を値上げした。これによって国内線の収支は改善の方向にあるという。国際線もインバウンド(外→内)の観光客、ビジネスの顧客は順調だ。にもかかわらず、株価が出遅れ気味なのは、外国人投資家がJAL再建に伴うさまざまな優遇措置が終了すれば、利益水準が落ちると見ているためだ。
JALは2010年1月の会社更生法の適用に伴い、一気に過去のウミを出した。その中の一つが、財産の評価替え。機材などの資産価値を時価まで引き下げることによって損失が出るが、翌期以降は減価償却費などの費用が軽くなる。今14年度においても、減価償却費で約200億円の軽減効果があり、その分、営業利益がかさ上げされる。
もう一つが、税法上の繰越欠損金(≒赤字)。税法上ある期に大幅な赤字になると、その後9年間にわたり、利益が出ても赤字(繰越欠損金)と相殺できて課税所得が減るため、法人税が減額されるか、納めなくてすむ。JALは経営破たんで10年3月期に約9000億円もの欠損金を計上し、これが繰越欠損金となっている。実際、JALの経常利益と最終利益は、12年3月期が1976億円と1866億円、13年3月期が1858億円と1716億円、14年3月期が1576億円と1662億円、15年3月期の予想も1350億円と1150億円となっている。
正常な決算の場合、最終利益は経常利益の5~6割であるのが普通だから、JALがいかに繰越欠損金の恩恵を受けているかが分かる。この優遇措置は18年度(19年3月期)まで適用される見込みだ。
現在、世界の航空会社の中でもトップ級の収益性を誇るJALも、外国人投資家から見ると、こうした優遇措置が期限切れを迎えれば利益水準が落ち、収益性が低下するというわけだ。一方、メリルリンチ日本証券の土谷康仁リサーチアナリストは、外国人投資家は最終利益の減少でJALのROE(株主資本利益率)が低下することを懸念しているが、実は同社には潤沢なキャッシュがあり、自社株買いなどの余地を考えれば割安感がある、と見る。
JR東海=リニアショック一方のJR東海はなんと言っても、この10月にも工事が始まるリニアショックだ。
ご存じのようにJR東海は日本経済の大動脈である東京~名古屋~大阪を結ぶ東海道新幹線を所有しており、収益性は高い。14年3月期の営業利益率は29.9%で、JR東日本の15%、JR西日本の10.1%をはるかに上回る。ROEも14.6%で、JR東の9.25%、JR西の8.41%をよりかなり高い。
つまり、多くの外国人投資家が、リニア中央新幹線が成功するかどうかに大きな疑問符をつけているわけだ。土谷氏によれば、疑問の中身は①なぜ既存の新幹線があるのに新たな新幹線を建設するのか、②なぜ人口が減るのに建設するのか、③なぜ巨額の事業を民間会社が独力でやり、かつ採算性に問題はないのか――以上の3点に集約されるという。
しかも、リニア中央新幹線の総工費はは東京(品川)から名古屋で5.4兆円、大阪までは約9兆円にも達する巨大プロジェクトだ。JR東海は5.4兆円といっても、27年までの13年間に割れば、1年当たり4000億円強で、無謀な投資ではないというものの、外から客観的に見れば、人口が減少し日本経済の成長が見込めない中では新規需要は増えず、既存の新幹線から顧客が振り替わるだけ、と危惧する。
土谷氏は、外国人投資家の疑問に対して、既存の新幹線は開業からちょうど50年が経ち、耐用年数と大地震対策を考えれば新たな新幹線が必要なこと、旅客数は人口よりも景気と連動していること、政府の支援を受ければルートや停車駅の設置などに関して政治の介入を招きかねないことを挙げて、JR東海の決断に合理性があることを説明しているが、外国人投資家はなかなか納得しないらしい。
外国人投資家といえば、短期の利益獲得を目指すというイメージが強いが、意外と長期的な視点に立っていることが分かる。JAL、JR東海は外国人投資家を納得させる、長期的な利益成長のストリーを描けるのだろうか。
(ダイヤモンド・オンライン編集長 原 英次郎)