これも前回書いたが、ジンバブエ(旧ローデシア)の農地の大半は白人農家に所有されている。彼らはイギリス植民地下で政府から土地を与えられ、開拓民としてアフリカにやってきた。そのため、こうした土地の所有権は政治的に大きな問題を抱えている。これが新生ジンバブエを苦しめ、のちに「白人によって不法に奪われた土地なのだから、それを黒人が取り戻すのは当然だ」という論理につながっていく。
「ラストリゾート」を黒人の無法者から守る物語が成立するのは、彼らの土地がこの「歴史問題」から切り離されているからだ。ダグラスの両親はアパルトヘイト時代は都市知識層で、ジンバブエとして“解放”されたのちに、正式な売買契約にのっとってロッジの土地を購入している。もちろん元をただせばその土地も白人によって不法に奪われたものかもしれないが、植民地時代から大規模農業を営む白人たちに比べて、所有権の正当性をはるかに強力に主張できるのだ。
著者のダグラス・ロジャーズは、土地を奪われるジンバブエの白人が“被害者”で、農場を占拠しようとする黒人が“加害者”という構図を巧妙に回避することでPC(政治的正しさ)のハードルをクリアした。白人であれ、黒人であれ、正当な権利の下に所有している資産を守ろうとするのは当然のことだ。それに、悪いのはジンバブエの黒人ではなく、ムガベという“邪悪な”権力者なのだから。
このようにして、権力に翻弄され、痛めつけられた高齢の夫婦が、勇気と才覚によって自らの権利を守り、生き延びるためにたたかうという、白人読者にとってきわめて心地よいストーリーが生まれたのだ。