「吐き気」「抜け毛」といった副作用のイメージが強い抗がん剤治療。最近は副作用を抑えながら、がん細胞だけを狙い撃ちする「分子標的薬」が注目されている。
副作用が軽減できる薬も
――抗がん剤治療は副作用がつらいという印象が強いです。
副作用は薬によってさまざまだが、予防薬の向上でかなり改善している。昨年9月に承認された「ジーラスタ(一般名・ペグフィルグラスチム)」は、白血球減少予防を持続できる。抗がん剤の種類に合わせて制吐剤を併用することで、吐き気も7~8割の確率で制御可能だ。
――近年、抗がん剤の中でも、がんを狙い撃ちする分子標的薬や抗体薬などが副作用も少なく、効き目が高い薬として注目されています。
分子標的薬は主にがん細胞の増殖を防ぐのが狙い。最近注目されており、がん細胞を増殖させる「ドライバー遺伝子」の抑制と免疫力の強化(免疫療法)が特徴だ。
慢性骨髄性白血病などに使う「グリベック(同イマチニブ)」、切除できない肺がんなどに使う「ザーコリ(同クリゾチニブ)」は、ドライバー遺伝子をピンポイントでたたくので、劇的に症状が改善し、比較的副作用も軽減できる。ただ、なかなか治るところまではいかない。
分子標的薬の中でも抗体薬は、ドライバー遺伝子を抑えるとともに、免疫反応でがん細胞をたたくことも期待されており、再発防止効果もある。
抗体薬「オプジーボ(同ニボルマブ)」は、国内では悪性黒色腫(皮膚がんの一種)に限定されているが、最近米国では肺扁平上皮がん(肺がんの一種)の治療にも承認された。このため国内でも同様に使えるよう厚生労働省で検討中だ。
分子標的薬は万能ではない薬代「100万円」も課題
――期待の大きな分子標的薬や抗体薬ですが、どんな課題がありますか。
がんは遺伝子の異常が原因なので、まず遺伝子を検査し、分子標的薬が効くかどうかを診断薬で確定診断した上で、最適な治療薬を選択する。
最近はこうした「個別化医療」が増える中で、各がん種における遺伝子異変の比率などもだんだん解明されてきた。しかし、まだ手探りの状態だ。免疫チェックポイント薬は免疫力を高める分、間質性肺炎や腸炎、肝障害などのリスクもある。
またがん細胞は頭が良いので、投薬し続けるうちにドライバー遺伝子に耐性が生じて、その薬が効きにくくなる。最初は10~12ヵ月単位で効くが、その後はほぼ必ず耐性が生じる。一方、免疫チェックポイント薬も全ての患者で免疫作用を強化するわけではない。
――分子標的薬の高額な薬価がますます問題となりそうです。
分子標的薬はとても高価なため、投与するのは効果を見込める患者さんに限るべきだろう。
薬をやめると再発するため、服薬・投薬を続けざるを得ないが、薬剤費の負担が問題となっている。例えば、グリベックは、月20万円近くも掛かる。月約100万円も掛かるオプジーボは、少なくとも1年間投与することになる。国内未承認のCTLAッ4抗体薬「エルボイ(同イピリムマブ)」は、米国で4回投与して約1200万円(円換算)。しかし、がんを長期コントロールできる患者は1割程度といわれている。
なお、『ダイヤモンドQ』7月号では、抗がん剤以外の新薬開発の最新事情についても掲載しているので、参考にしてほしい。