「あたたかな気持ち」「高い地位」などの言葉を私たちは当たり前のように使っています。「蜜のような甘い言葉」は、愛の囁きの比喩として、誰でもすぐに理解できます。
でも考えてみれば、これは不思議な話です。世界にはさまざまな言葉や文化、習慣があるのに、なぜこの比喩が注釈もなく翻訳できるのでしょうか。
この疑問に、現代の脳科学はこう答えます。「それは比喩ではなく、実際に脳の味覚に関する部位が活動しているからだ」――愛の言葉と蜜は、脳にとっては同じ刺激なのです。
これだけなら驚くようなことではないかもしれませんが、テルアビブ大学のタルマ・ローベル教授は、この因果関係が逆にしても成り立つことを発見しました。「甘いものを食べながら聞いた言葉は甘く感じる」のです。
ほんとうにこんな不思議なことがあるのでしょうか。それを次のような実験で確かめましょう。
学生がエレベーターに乗ると、そこには本とクリップボード、コーヒーカップで手がふさがった助手がいます。助手は学生に、「ちょっとコーヒーカップを持ってくれませんか」と頼みます。
次に学生が研究室に入ると、実験担当者からある(架空の)人物についての資料を読むようにいわれます。その後、学生にこの人物の印象を尋ねます。
ランダムに選ばれた学生が同じ資料を読むのだから、質問への回答に統計的な差は生まれないはずです。しかし興味深いことに、特定の質問項目にだけはっきりとしたちがいが現われました。それは、「親切/利己的」など、性格があたたかいか冷たいかを連想させる質問でした。