電力・ガス新時代の一大プロジェクトが船出前に座礁した。2015年10月に業務提携した東京電力とLPガス大手の日本瓦斯(ニチガス)。
今年4月の電力自由化に続き、来年4月にはガスも自由化され、エネルギー業界は大競争時代に突入する。両社の提携はそれに向けて布石を打った動きだった。

 今月9日には、ニチガスが販売する都市ガスの卸供給元を、従来の東京ガスから、東京電力の小売り会社である東京電力エナジーパートナーに切り替えることを発表。小早川智明・東京電力エナジーパートナー社長と和田眞治・ニチガス社長はがっちりと握手をしたばかりだった。

 ところが、その裏で両社に修復困難な亀裂が生まれていたのだ。

 当初、両社には電気とガスを販売する合弁会社をつくる構想があった。15年12月上旬には小早川・和田両社長が会談し、合弁会社設立の方向性を確認していた。

 しかし、和田社長がその構想を12月末に撤回していたことが分かった。合弁会社の出資比率が原因だったという。

 ちゃぶ台返しを食らった東電が慌てたのは言うまでもない。ニチガスは激しい営業姿勢で知られ、業界内では「暴れん坊」と称される。東電社内ではそんな暴れん坊と組むことを疑問視する声が根強かったが、担当者たちは合弁会社設立へ向けて社内を説得し、東電経営陣の承認も得ていた。

 最終的に、ニチガスが電気についてだけ東電の料金メニューを代理販売することで決着。当初の構想から大きく後退してしまった。

 両社は今後も都市ガス販売の戦略的アライアンス協議を進めるというが、「今後、東電とニチガスが今以上の踏み込んだ関係になるのは難しい」との見方が大勢だ。17年4月の出陣を前に、修復困難な亀裂が入ってしまったわけだ。

 この顛末について東電は「回答は差し控えたい」、ニチガスは「あらゆる協議をしていたが、合弁会社について合意はしていないし、従って撤回もしていない」と話す。

首都圏ガス販売で競合か

 合弁頓挫の影響は小さくない。電気に加えてガスも自由化されたとき、最も競争が激しくなるのは東京、とりわけ23区内だ。人も企業も密集していることに加え、ガスを実際に届ける都市ガスの導管がすでに敷設されているからだ。

 23区内の都市ガス市場は東京ガスが独占している。この牙城を崩そうと、東電もニチガスも攻め込む構えだ。もし合弁会社が設立されていれば、両社で共闘して切り込めた。ところがそれが実現しなかったため、両社は首都圏の都市ガス販売について戦略の再構築を迫られている。

 このままなら、電気の販売で手を結んだ両社が、今度はガス販売で競合相手となる可能性もある。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)

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