
レヴォーグ開発責任者
商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャー
五島 賢氏
●写真は64km/hでのオフセット衝突テスト後。じつは後席に乗せたダミー人形の1体は、後席シートベルトをしていない。スバルがシートベルトの大事さを伝えるため、“シートベルト未装着”の恐ろしさを周知させたくて、あえて行ったテストだ

SUBARU LEVORG
スバルは安全から始まった
2020年度の自動車アセスメント(JNCAP)で、レヴォーグが衝突安全と予防安全性能の両方で最高得点を獲得した。これまでもスバルはJNCAPで輝かしい成績を残してきたが、2代目となるレヴォーグは「自動車安全性能2020ファイブスター大賞」を受賞。総合的な安全性がもっとも高い(190点中186.91点)クルマとして認められた。
こうしたスバルの安全性に対する姿勢は、国民車として開発されたスバル360の時代から一貫している。第二次世界大戦時の富士重工業は戦闘機などの航空機を製造し、優れた技術力と豊富なノウハウを持っていた。戦後、GHQ(連合国最高司令官総司令部)によって航空機製造を禁止されたが、その技術力を生かして自動車の製造に本格的に参入したことはご存じのとおり。
当時はシャシー技術も発展途上。クルマは、フレームの上にボディをマウントするというのが一般的な製造方法だった。

安全思想の原点「スバル360」
航空機開発をルーツとするスバルが最初に造ったクルマが1958年デビューのスバル360だ。安全が今ほど叫ばれていなかった当時から、全方位の衝突安全性を独自テスト。その後、水平対向エンジン+シンメトリカルAWDをコアとする走行時の安全、またアイサイトに代表される先進安全などたゆまぬ技術開発がレヴォーグに詰まっている。
愚直に考え、真摯につくる

時を戻そう。今回のレヴォーグの大賞受賞に合わせて、スバルはレヴォーグの総合安全性能を説明する会を開いた。そこで常務執行役員CTO(最高技術責任者)技術本部長兼技術研究所長の藤貫哲郎氏が強調したのは、スバル車に共通する安全性の基本「0次安全」だった。
ドライビングポジションはもちろん、ウインドーのデザインなど人間工学に基づいた検証を実施、疲れにくく運転しやすいクルマづくりを行っている。スバルらしい基本に忠実なその姿勢は、ユーザーにとってもっとも信頼をおけるポイントともいえる。

あえて見せる「シートベルト未装着の怖さ」
後席には2体のダミー人形。左側はシートベルト未装着だった。衝突の衝撃でダミー人形は前席を乗り越え、フロントガラスに衝突。大惨事は免れない。また助手席乗員がシートベルトをしていたとしても、後方からミサイルのように乗員が飛んでくる。エアバッグやボディなどがいかに進化しても、シートベルト装着がもっとも大事なことがわかるテストだった。
歴史を紡いで、今がある
レヴォーグの開発責任者であり、商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャーの五島 賢氏の説明にも誠実さがにじみ出ていた。新機能であるアイサイトXが安全に貢献するのはもちろんだが、より強調したのは「伝統のAWDとスバルグローバルプラットフォーム(SGP)、そして新環状力骨構造ボディなどが優れた安全性につながっている」ということ。そうした一つひとつ紡いできた技術が現在の「スバル=安全」という実績につながっているのだ。
レヴォーグのオフセット衝突試験映像も公開された。SGP+インナーフレーム構造により衝撃をうまく吸収し、エアバッグの効果もあって乗員(ダミー人形)は守られる……という内容かと思いきや。
じつは、後席のダミー人形2体のうち1体はシートベルト未装着だったのだ。
事実、スバルは早くから後席シートベルト着用をうながす未装着ウオーニングランプ&ブザーやリヤシートリマインダーを採用。北米市場の法規に対応した装備とはいえ、国内仕様にもしっかり装着していることにもやはり真面目さが表れている。
対歩行者の安全にも
また、インプレッサから採用された歩行者エアバッグもスバルの安全を支えるコア技術だ。国産ではスバルが唯一となるこの装備は、万が一歩行者をはねた場合、硬いAピラーやその周辺に頭部が当たるのを防ぎ、致命傷になりやすい頭部障害値を抑える役割を持つ。
こう説明すると簡単な装備に思えるが、古川氏は「歩行者を検知するセンサーの開発が難しかった」と開発当時を振り返った。歩行者ではなく電柱や壁に当たったときに歩行者エアバッグが開かぬよう、スバルでは独自に開発したチューブタイプのセンサーを採用している。
これは、バンパーに足が当たって押され、次にバンパー裏に配置されたチューブがつぶれると圧力の変化で歩行者として判断し、歩行者エアバッグを展開するという仕組み。衝撃があったら片っ端からエアバッグを展開すればいいというものではないのだ。
新採用のアイサイトXは、渋滞時のハンズオフアシストなど高度な運転支援を行う最先端の先進安全装備。大賞受賞にそういった装備が大きく寄与したのは事実だが、スバルは0次安全から衝突安全ボディなどの基本をつねに意識してクルマ造りを行っている。スバルが目標とする「2030年にスバル車が関係する死亡事故ゼロの達成」がいよいよ現実的になりつつある。
〈レヴォーグの安全を支える主要技術〉

①圧倒的な視界のよさ「0次安全」
レヴォーグに限らず、スバル車は直接視界が圧倒的に優れている。助手席側の三角窓とサイドミラーの位置も絶妙。それでも死角になる部分はカメラなどでフォローする。

②安心かつ楽しい走り
全車シンメトリカルAWDを採用するレヴォーグ。レガシィから受け継ぐグランドツーリング性能が最大の売りで、その走りについては楽しさはもちろん、路面を問わない安定感が安心・安全なドライブを提供する。

③アイサイトX
ハンズオフでの走行などが注目されがちだが、じつはステレオカメラがフロントガラス直貼りタイプとなって検知の範囲が広がっている。“飛び道具”だけでなく、リアルワールドでの安全性に注力するのがスバルだ。
④つながる安全「スターリンク」
全方位に磨き上げてきたスバルの総合安全に、レヴォーグから新たに加わったのがコネクティッド技術による「つながる安全」。例えばエアバッグが展開するような衝突事故発生時には自動的にコールセンターにつながり、緊急車両やドクターヘリの申請を行うシステムだ。
スバル 「安全の歴史」
「全方位の安全性」
1958年 スバル360
「走る・曲がる・止まるを安全に」

1966年 スバル1000(水平対向エンジン)

1972年 レオーネ4WD(シンメトリカルAWD)
「走りを極めれば安全につながる」

1989年 初代レガシィ
「新環状力骨構造ボディ」

1998年 3代目レガシィ
「ADAの商品化」※アイサイトの前身

1999年 レガシィ ランカスター
「JNCAPグランプリ」

2008年受賞 3代目インプレッサ
「SGP+歩行者エアバッグ」

2016年 5代目インプレッサ
「アイサイトの進化」

2008年 アイサイト商品化
2010年 アイサイトver.2
2014年 アイサイトver.3
2017年 ツーリングアシスト
2020年 アイサイトX
〈文=丸山 誠 写真=スバル〉