高齢者によるブレーキ・アクセル踏み違い事故が続々と起こる。ノーブレーキどころかアクセルをベタ踏みで突っ込むわけで、被害は甚大となる。
1、正反対のペダルが足もとに
ブレーキとアクセルは、正反対の働きをする。正反対のペダルを、運転席の足もとの暗がりに接近して2つ並べ、目視確認することなく、ひっきりなしに踏み換える。人間に「ついうっかり」はつきものだ。たまに間違えて踏む、それは自然なことといえる。
2、死亡事故の88%は高齢者
「アクセル・ブレーキの踏み違い交通事故件数の推移」という文書を、情報公開法を利用して警察庁からゲットした。
【画像】踏み違い事故2016-2020年のデータ
踏み違い事故は、2016年は5085件、どんどん減って2020年は3020件。3020件の年齢層別の内訳はこうだ。
・15歳以下 0件
・16~24歳 474件
・25~29歳 205件
・30~39歳 266件
・40~49歳 281件
・50~59歳 288件
・60~64歳 201件
・65~74歳 603件
・75歳以上 702件
・合計 3020件
16~24歳が踏み違い事故をけっこう起こしている。運転に不慣れなせいだろう。そうして、65歳以上がどかんと多い。
なぜ高齢者が多いのか。一般的には、高齢になるほど、頭の中で情報を処理する能力が衰えるという。例えばスーパーや病院などの駐車場では、なるべく玄関に近い駐車枠を探しながら、他のクルマや人や自転車に注意を払う。赤信号で停止するよりずっと多くの情報を同時に瞬時に処理しなければならない。そのうえで、的確にハンドルを切りつつ、足もとに2つ並んだ真逆のペダルをひんぱんに踏み換える。予想外のことが突然に起こったとき、頭の中での情報処理が間に合わなくなりやすい。踏み違い事故が高齢者に多いのは、これも自然なことというべきだろう。
次に、そのうち死亡事故になった件数を見てみよう。死亡事故に限って見ると、2016年は47件、その後増えたり減ったりして、2020年は57件。
・15歳以下 0件
・16~24歳 1件
・25~29歳 0件
・30~39歳 0件
・40~49歳 1件
・50~59歳 3件
・60~64歳 2件
・65~74歳 15件
・75歳以上 35件
・合計 57件
若年層も踏み違い事故をけっこう起こしているが、死亡事故に至ったのは1件のみ。一方、高齢者は、57件中50件、約88%! 高齢者の踏み違い事故はかなり多く、しかも非常に死亡事故になりやすいという、恐ろしい事実が見てとれる。
高齢者の踏み違いはなぜ死亡事故に結びつきやすいのか。若い人たちは「あっ、踏み間違えた!」と気づくのが速い。ブレーキへ踏み替えるのも速い。事故っても被害は小さくすむ。一方、高齢者は、踏み違いに気づくのが遅れがちだ。ペダルを踏み替えるのにも、若い人たちより時間がかかる。あわてると、「ブレーキを踏まねば!」のうち「踏まねば!」だけで頭がいっぱいになり、いま足が乗っているペダル=アクセルをべた踏みしてしまうことがあるという。それもまた自然なことといえよう。
■加害者には厳罰を…それだけでいいのか?
3、加害者に厳罰を!
どうすればいいのか。日常の運転では、アクセルをべた踏みすることはまずない。とりあえず、ベタ踏みしたとき加速をキャンセルする機能があったらいいね。日本の有能な技術者ならつくれるんじゃないか?
じつはとっくにつくられ、販売されている。複数の業者が、物理的に、あるいは電気的に加速をキャンセルする装置をつくっている。後付けの装置で、だいたい数万円で販売している。本誌『ドライバー』の2017年の2月号でだっけ、いくつも取り上げた。私も記事を書かせてもらった。
しかし、ベタ踏み防止装置は、まったくマイナーだ。なぜ? 私はもう40年ほど交通違反・交通取り締まりを通じて交通行政を見てきた。交通事故の裁判も940件ほど傍聴してきた。そこから見えてくるのは、交通事故に対するこの国の基本的な考え方だ。
「交通ルールを守れば事故は起こらない。守らせるためには違反者を取り締まればいい。事故を起こしたら処罰すればいい。重大事故が続くなら厳罰化すればいい。損害は保険でカバーすればいい」
これでは、踏み違い事故を防止することはできない。そしていちばん大事なことは、どんなに厳罰化しても、踏み違いで重大事故を起こした高齢者を死ぬまで刑務所にぶち込んでも、失われた命や損なわれた健康は戻らないってことだ! 踏み違い事故はこれからも起こり続けるだろう。大切な命、健康が奪われ続けるだろう。私は残念で悔しくてならない。
※ 「加害者を死刑にしても、失われた命は戻らない。何より大事なのは、人間についうっかりはつきものであることを踏まえたうえでの事故防止策だ。事故ったときに人(特に歩行者)が被害を受けない対策が必要だ」との趣旨を、私は長年言い続けている。
今井亮一●肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。