事務所でコピーをとっていて、「トナー切れです」と画面に表示されると、粉状のものを補給しなければならない。これは実は粉状のインクなのだが、なぜ、インクなのにトナーというのか。
コピー機メーカーにきいてみた。

現在、広く使われている普通紙コピー機の原理は1938年に米国人のチェスター・カールソン氏が発明。同氏はもともと特許申請の書類をつくる仕事をしており、書類を何枚も書く作業を簡略化したいという発想から生み出した。その当時から、液状のインクではなくトナーと呼ばれる粉状のインクを使っていた。

レーザービームなどを照射して肉眼では見えない「電子の像」を感光体につくり、それにトナーを付着させることで目に見える像にして紙に定着させるのがコピー機の原理。インクが粉だったのは、感光体に付着させるのに静電気を利用するのだが、液体インクよりも帯電しやすい粉状が重宝だったからだ。


「この見えない電子の像を具現化する工程をコピー機の業界では『toning(トーニング)』と言い、これがtoner(トナー)の語源だと思います」と株式会社リコーの機能材料開発センター所長、村山久夫氏は説明する。

toneは色の明暗、濃淡いわゆる色調、階調を意味する言葉。動詞では「調子、色調を帯びる、合わせる」となる。見えない像に色調を与えるのが粉状のインクなので、それをトナーと名付けたわけだ。

トーンという言葉は「写真のトーンが豊かだ」「音のトーンが高い」など日常よく使う。この馴染みのありふれた言葉が専門用語のトナーの語源だったとはちょっと驚き。


単なる粉だと軽んずなかれ。トナーは語源で見た通り、色調をつくる役割を担う。トナーの良し悪しが、コピー機やページプリンタの画質に大きな影響を与えるものなのである。
(羽石竜示)