ポップなカラーが楽しいそれは、各階の窓やベランダから始まって、地上へとつながっている。
もしや韓国の子供たちは普段から、この中を通って下の階や外に移動しているのだろうか。だとしたら地球を守る秘密結社の隊員みたいではないか。毎日が素敵すぎである。
一方で気になるのが、その標高差。円筒で視界がふさがれているとはいえ、3階の高さからすべると思うとちょっと怖い。
特に写真の物件の場合は、3階と2階の接合点で子供どうしが衝突しないか心配だ。遊具というには、ちょっとスリルがありすぎる気がするのだが。
果たしてこれは、本当にすべり台なのか? 近所の保育園を訪れ、直接聞いてみた。
見知らぬ外国人の訪問にも親切に対応してくれた先生によると、「遊具じゃなくて非常口ですよ。普段は使いません」という意外な答え。
ファンシーで夢あふれるフォルムにだまされてしまったが、実は結構リアルな用途の施設だったのである。
私が訪れたA保育園では1カ月に1回防災訓練があり、子供たちはその時だけ、チューブからつるんと外にすべり出すということ。
なお、子供たちだけでなく、職員である大人たちもこのすべり台で脱出するという。もちろん訓練という真面目な目的だけど、ちょっとうらやましい。
それにしても子供たちは、こんな楽しげな物が身近にあったら、ついつい外にすべり出してしまったりしないのだろうか。
授業中に「こんな退屈な幼稚園からはもう卒業だ!」と言い放ち、つるんとエスケープする自由な児童がいたりしないのだろうか。
先生に聞くと、「訓練以外ではすべりませんよ」とのこと。非常口の入り口に鍵はかかっていないそうだが、子供たちは自分を律して毎日を過ごしているというわけだ。
建物の形状や立地により様々なラインを持ち、観察対象としても非常に興味深いチューブ型非常口。
ダイナミックな動きを見せるカラフルなチューブに出会ったら、ここはスピードが出そうだ、ここは目が回りそうだ、など自分がすべっている図を想像しながら鑑賞すると、理解も深まるはずだ。
(清水2000)