エスカレーターの乗り方ひとつにも地域差があるそうで、関東では左側に、関西では右側に立つ、なんて話をよく耳にする。
こちらソウルではと言うと、人々は右側に立ち、急ぐ人は左側を通る、そんな光景が日常的なものとなっている。
韓国人と大阪人は性格が似ているとよく言われるが、こんなところにも共通点があると思うとおもしろい。

しかしこの右に立つ乗り方、実は韓国では「不正解」なのである。公的に推奨されているエスカレーターの正しい乗り方は、右立ちでも左立ちでもなく「2列立ち」だ。

ここ最近、ソウルの地下鉄のエスカレーター周辺に、西洋人の女性がイエローカードを掲げ「1列立ちNO、2列立ちYES」と訴えるポスター(写真)が設置され、正しい乗り方を呼びかけている。
さらに係員がエスカレーター付近に立ち、2列立ちを通行人にアピールする姿も、まれに見られるようになった。

エスカレーター2列立ち運動を推進する韓国昇降機安全管理院(エスカレーターの検査や事故調査、教育活動を行う公的機関)によると、このキャンペーンが始まったのは2007年9月のことだ。
それまでは上記の通り、ベルトをしっかりつかんで右側に立ち、通行人のために左側を空けるのがエスカレーター利用のマナーとなっていた(2002年には「1列立ち運動」も行われている)。
しかし、空いた左側を急いで追い越し、他の人にぶつかる事故が多発。これを問題視する声が挙がり、近年の「2列立ち運動」に至ったというわけだ。

「昨年、地下鉄内での事故のうち80%が、エスカレーターで起きているんです」と安全管理院は話す。
「キャンペーンのおかげで現在は、アンケート調査の結果80%の人が、2列立ちの必要性を認識しているようですが、せわしない国民性のせいか、エスカレーターを駆け上がる人はまだまだ多く、片側に立つ習慣も依然として残っています」。ポスターを見て、2列立ちは不便だと電話をかけてくる市民もいるという。


「2列立ちの文化は、ヨーロッパではかなり定着しているようです」とは安全管理院の言だが、以前コネタでも紹介したように、実は日本の昇降機メーカーも、安全上エスカレーターでの追い越しを禁止している。
エスカレーターで追い越さない・片側を開けないことは、もはや世界的なマナーだと言えるのではないか。日本人である私も正直のところ、エスカレーターで前の人が片側に寄っていたら、ついつい追い越したくなる気持ちも生まれるけれど、その衝動をぐっとこらえ、「2列立ちYES!」の精神でのんびり行きたいものである。
(清水2000)
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