「小布施の○○で、フリーラインスケートをやってるのは、きみの父上か?」

小中時代の同級生から、突然、そんな謎のハガキが届いた。

「フリーラインスケート」とは、アイススケートともスケボー、ローラースケートとも違う、片足ずつバランスをとって、上半身と下半身のひねりを推進力に変換してする新感覚のスポーツ。

実は昭和7年生まれの父が、マラソン、水泳、ボーリング、スキーやローラースケート、アイススケートなど、様々な過剰なる「スポーツ熱」を経たうえで、1年ほど前から夢中になっているのが、件の「フリーラインスケート」であった。

見た目は、鋼の板のようなものに2つの環がついたシンプルすぎるもの。「手のひらサイズのスケボー」みたいでもある。でも、父いわく、
「これまでやってきた運動の要素のすべてが詰まった全身バランス」「片足ずつのせ、足をまったく固定しないでやるから、とにかく難しい」「うまくなると、坂道ものぼれる」と。しかも、これ、30キロとか40キロのスピードも出るようになるそうだ。
父よ、そんなに急いでどこへ行く……。


まるで自転車に乗れない子の練習のように、転んだりしながらも夢中で練習する父を心配しつつ、熱心なトークはテキトウに聞き流し、ベランダの手すりなど使った地味な練習風景も横目に見ていたのだが、先日、帰省した際に久しぶりに見た滑りには、正直、仰天した。
片足ずつ「のせているだけ」というのに、そんな不安定さはなく、上半身のひねりと下半身のひねりを交互に行う不思議な動きは、未知の生物のようでもある。

見たことのない父の不思議な動きに、公園内ですれ違う人は大げさでなくみんな振り返り、「なに、あれ?」と指をさされたり、「どうなってるの?」と声をかけられたり、「しかもおじいちゃん!?」などと驚かれたりしていた。
私も写真を撮ろうと、キックボードで追いかけたが、なかなか追いつけないスピード……。

このフリーラインスケートを販売している(有)チェスコム北海道によると、日本で広まったのは、発売開始した2006年秋頃から。
10代~30代を中心に、愛好家が増えるにつれ、協会が、さらに各地でグループ、サークルなどができていき、現在、日本のフリーラインスケート人口は約2万人にも広がっているという。

「動きによっては坂道を上れること、半径ゼロで回転できることも魅力です。片足ずつバランスをとるのが肝心なので、サーフィンやスノボのバランス感覚を養うにも良いんですよ」

メインは10代~30代というが、ちなみに年配層は?
「ロングボードは、クルージング感覚で楽しんでいるおじいちゃんもけっこういらっしゃいますが……フリーラインスケートではなかなか……。77歳? きっと日本一ですよ!(笑)」
ならば私も……と思い、試しに乗ってみようとしたが、玉乗りの曲芸のようで、全然バランスとれません!

毎日毎日、77歳の父が飽きもせず、それどころか日々ますます過熱しているフリーラインスケートの魅力のひとつは、たぶん素人がいきなり容易にはこなせないこと。だからこそ、乗れたときの喜びが大きいのではないだろうか。

運動が好きな人、運動神経に自信がある人、新しモノ好きの人、目立ちたがり屋の人、まったく新しい世界を見てみたい人、大きな感動を経験したい人には、オススメです。
(田幸和歌子)