私が小学生だった二十数年前、保健室にはいつも元気のいい女の先生がいた。

大騒ぎの予防接種に健康診断、そして林間学校の前に女子だけ集められて聞いた例の話。

授業中「お腹が痛い」と保健室に行ってこっそり担任の先生には言えない相談をしたことも……。
思い出の中の先生はいつもジャージに白衣姿。
しかし「最近の保健室の先生は白衣を着ていない」と聞いた。はたして本当だろうか?

小学校の保健室の先生(正式には養護教諭といいます)3人に質問したところ、
「白衣は着ません。寒い時に羽織ることはあるかな」
「昨年度は一度も着ませんでした」
「着ません。基本的に汚れてもかまわない服を着ているし、嘔吐物処理などの時には使い捨てのエプロンをつけます」
いずれも白衣はほとんど着ないとのこと。


そこで、養護教諭向けの雑誌を発行して60年の東山書房「健康教室」編集部に最近の事情を聞いてみた。

「20~25年ほど前から白衣を着ない先生が増えてきたように感じます。いまでは私服にエプロンや、ジャージの先生が多いですね。白衣は威圧感がある、冷たい感じがするといったイメージの問題と、毎日洗濯するのが面倒でかえって不潔になるなどの理由があると思います」

それだけではなく、白衣の謎は保健室の歴史にも関係していた!
「養護教諭は明治時代に『学校看護婦』として始まりました。その流れで昔は看護師から養護教諭になる方が多かったため、白衣を着る先生も多かったのでしょう。しかし時代と共に看護師免許を持たず教員免許だけの先生が増えました。
もしかしたら“自分たちは教育職であり、医療職ではない”という思いが白衣を着ないという行動につながっているのかもしれませんね」

そもそも、保健室の先生は“学校で病気やケガを治してくれるお医者さんのような人”ではなく、“健康教育を担い、心身共に健康な児童を育てる先生”という立場。
今でもドラマやマンガでは保健室の先生といえば白衣姿だが、あれはあくまでもイメージであり、わかりやすい記号として使われているらしい。

「養護教諭には長い歴史がありますが 、児童の養護を司るという基本は変わりません。子供たちへの接し方を工夫していくなかで、柔らかさや親しみやすさをだすために白衣を着なくなったということでしょう」

子供たちが話しやすいように、心を開けるようにと先生もいろいろ工夫しているらしい。
どんな服を着ていても、やっぱり子供にとって保健室の先生は特別な存在……。
それは今も変わっていないとわかって少しホッとしました。

(宮沢弥栄子)