自転車で公園近くを通るとき、知人がこんなボヤキをした。
「最近のハトは、ますます逃げないね。
危なくて仕方がない」

最近かどうかはともかく、確かにハトって、他のトリに比べて、人間が近づいても全然逃げようとしない。
身近なトリの中でも、すばしっこいスズメなどに比べて、やや愚鈍に見えるときすらある。
これってなぜ? 単に警戒心が薄いということ? 財団法人山階鳥類研究所に聞いた。

「ドバトは確かに、近づいてもすぐに逃げない傾向がありますが、基本的にハトは家禽なので、人に対しての警戒心がないものがもともと選ばれていったという可能性もあります」

ハトの歴史を振り返ると、野生のトリを昔から1000年単位で飼いならしていったなかで、「人間が、警戒心が薄く、慣れやすいハトを選んで残していった結果」ということも考えられるのだそうだ。
「また、家禽として、人間に頼って生きていること、人間が害をなさないことを長い年月で覚えていったことは大きいと思います」

ドバトの先祖の多くは、「カワラバト」を原種とする外来の鳥であり、かつては観賞用、伝書鳩など、様々な役に立ち、「イエバト」として飼われてきたわけだが、それが野生化したり、伝書鳩が戻れず、公園などに棲みついたなどの経緯があるのだとか。

ところで、ハトがますます逃げなくなってきているかどうかについては、
「それはどうでしょう。
昔から、よちよち歩きの赤ちゃんが、お寺などでハトを追いかけてとばすようなシーンはありましたし、お寺のハトなどは昔から人間が大切にしてきたことがありますので、変わらないと思いますよ」
とのこと。
ただし、野生の鳥に関しては、ハトに限らず、「昔に比べると、警戒心が薄い」傾向はみられるのだそうだ。
「たとえば、ハトも、昔はつかまえようとする人がいたり、石を投げる人がいたり、50年ぐらい前には食べちゃう人もいたほどでした。それが、今は『野鳥を大切に』という風潮になってきて、特に都市部の野鳥は警戒心がなくなってきています」

どんなに警戒心がなくなっても、不思議なのは、人間に自ら接近しておきながら、たった1羽が飛び立っただけで、一斉に大慌てで飛び立つということ。
自分から寄ってくるのに、突然、大きな砂埃をたてて飛び去られると、ビックリすることもあるけど……。
「一羽がたつと、一斉に飛び立つのは、鳥の習性です。
危険を感じると群れで行動することで、身を護ってきたのです」

警戒心をすっかりなくしたようでも、「群れの習性」は忘れていないハト。
さらに、長い歴史の中で、かつては「イエバト」として飼われてきたのに、いまでは道路や建物へのハトのふん害の深刻化や、人にうつる病気、アレルギーの原因になる可能性から、嫌われることも多い存在でもある。

「長年飼いならされてきた警戒心のなさ」と、「嫌われるようになった状況」との間で、複雑な思いをしてるのでしょうか。
(田幸和歌子)