世の中には様々な趣味嗜好がある。崖が好きだったり、ビルに萌えたり、デパートに悶えたり、ハッキリ言って理解できない。


そして、またしても摩訶不思議な人種が発見された。それは「首都高フリーク」。
6月16日にイカロス出版から発売されたムック『首都高をゆく』で、各界の著名人が各々の首都高“萌えポイント”を幸せそうに紹介しているのだ。
この人たち、色々語ってくれているのだが、それがあまりにも独特な感性で、読む側もついていくのが精一杯。愛情のベクトルが個性的なのである。

まず登場してくれたのは、漫画家の江川達也。
彼は小学3~4年生の頃から自分で想像して、架空のジャンクションをデザイン。親から心配されていたという。
上京してからは意味もなく首都高に乗り、環状線を何周も運転。帰宅後は通ったルートを地図で見直し、一人反省会をしていたというから骨太の首都高好きだ。
他にも立体交差の数が多く、造形的にカッコいいという理由で三郷ジャンクションを推してみたり、大橋ジャンクションの建設現場を見て周り、「俺ならこうデザインするのに」と空想してみたり、と常人離れした嗜好の持ち主。

都市・地域プランナーとして活動する一方、土木の魅力を発信するグループ「TOKYO DOBOKU SOCIETY」「laud」を主催する御代田和弘さんも首都高フリーク。

御代田さんが個人的に好きな場所は、2号目黒線の天現寺出口。渋谷川と首都高の狭い隙間を通過し、路地のような細い道から明治通りに出て行く、その形状が面白いのだという。「『よくここを通したな』っていうすごい場所にあるんです。きっと限られた土地の中で無理やりカーブを作ったら、偶然キレイな曲線ができてしまった」と自論を展開。今までそんな予測をしたことがなかったので正直ピンとこなかったが、そう言われてみればそんな気もする。

しかし、このような首都高の愛好家というのは以前から生息していたのだろうか? その辺を、イカロス出版の編集部にお伺いしてみた。

「『土木の美しさを愛でよう』という意識が、最近高まってきているんです。“工場萌え”に端を発し、人工構造物の塊に対する人気が高まり、それが首都高にも波及してきているみたいですね」
そんな機運、私は全く気づいていなかったのだが、確実にそういう人気が存在するようだ。

ムックでは識者たちが「ジャンクション」、「橋」、「地下トンネル」、「首都高と景観」、「建設現場見学」、「渋滞」、「高架下の世界」、「標識」といった独自の視点で首都高“萌えポイント”を紹介してくれている。
彼らの首都高に対する愛情は千差万別。編集部いわく、「首都高を部分的に土木的見地で見ている方が多いです。首都高を全体的に好きでいるのは走り屋が多いんじゃないですかね?」とバッサリ。


実際、「首都高を趣味で走るヒトビト」と題して首都高を走るチームにも取材。走るとキモチいい“おすすめポイント”も紹介してくれており、アクティブ派にも親切。夜景が美しいスポットが人気のようだ。

実は、首都高が創立して今年が50周年。それを記念して発売されたムックには、今まで知らなかった(知ろうともしなかった)首都高の魅力が紹介されていた。
それにしても、首都高にこれだけの魅力があるなんて。
「わかる奴だけついてこい」と言わんばかりの、ハードルの高さ。狭き門にも思えるが、愛好者の表情を見ると幸せそうなので、思わず羨ましく感じてしまった。
隠れ“首都高フリーク”には心強い一冊となるであろう。
(寺西ジャジューカ)