世界各地での和食ブームにともない、日本酒の知名度も高まっている。いまや海外で日本酒を口にする機会も珍しくない。


それどころか、海外でなければ飲めない日本酒もある。それがアメリカのオレゴン州にある「サケワン」(SakeOne)の銘酒たち。実はここ、世界で唯一のアメリカ資本・経営による酒造所なのだ。

サケワンの歴史は意外に古く、1992年にまでさかのぼる。もともとは江戸時代に発祥した青森の蔵元、桃川株式会社との合弁会社がその前身。当初は日本酒の輸入のみをおこなっていたが、数年後には現地での酒造りもスタート。
1998年には社名もサケワンに変更し、世界で唯一のアメリカ資本・経営による酒造所になった。

酒造りの技術は関連会社である桃川の杜氏から直々に教わることができたとはいえ、アメリカで酒造りを始めるには相当な困難があったよう。同社の広報担当は、
「日本酒協会もなければ、学校もない。工場や設備はもちろんなく、米の選択肢も限られていました」
と当時を振り返る。設備の多くは日本から輸入したため、非常に高価だったという。

現在のところ、サケワンの酒はアメリカのほかに、カナダやメキシコ、カリブ海の国々などで味わえる。
レストランやスーパーマーケットなどで扱っているが、機会があればオレゴンにある同社の酒造所を訪ねてみるのも面白いだろう。日本人の訪問客も多いそうだ。

ちなみに同社で有名なブランドといえば「モモカワ」(Momokawa)だが、ほかにも試したい銘酒は多い。なかでも珍しいのが、フルーツで風味づけをした「ムーンストーン」というシリーズ。ラズベリーやナシを使ったシンプルでスッキリしたものから、梅を入れた甘く濃厚な味わいのもの、さらにはココナッツやレモングラスを入れたエキゾチックなテイストまで幅広いラインナップ。ボトルのデザインもオシャレなので、日本酒というより新感覚のお酒として楽しむのもよさそうだ。
最近では他社の類似製品も見かけるが、同社では11年近くも前からこうした酒を造っている。

日本の伝統への敬意を常に念頭に置きながら、アメリカで最高の日本酒造りに励むサケワン。海外で飲む日本酒は、ひと味違う趣がありそうです。
(古屋江美子)

※本来、「SakeOne」の「Sak"e"」にはアクサンテギュが付いているが、環境によっては正しく表示されないため「e」で表示