「この人、誰だっけ?」
「これ、何だっけ?」

知ってるのに、人やモノの名前を思い出せないことって、ときどきある。

年齢的には「もの忘れ」が増える時期でなくとも、人やモノの名前がすぐに思いだせないことが増えると、不安になるけど……。


もの忘れを思い出すにはどうしたら良いのか。
東邦大学医療センター大橋病院「もの忘れ外来」に聞いた。

「興味のないことは忘れてしまうもの。仕事や日常に支障がある場合は別として、メモに書いておいて思いだせれば十分です。問題なのは、そのメモがどこにいったか思い出せない場合、自分がメモを書いたかどうかもわからないという場合です」(脳神経外科・平田容子医師)

「携帯電話を持つようになってから、電話番号を一切覚えられなくなった」という人も多いが、「必要ないから覚えないだけ。自然なことですし、その分、他の作業に脳を使っているはずですよ」とのこと。

「思い出せない」のにはちゃんと理由がある。
「忙しいときなど、新しいことを次々に覚えていると、思い出す優先順位が後になります。また、それを引き出すヒント・きっかけもなく、同じような刷り込みもなければ、思い出せないもの。人の記憶は反復しないと刷り込まれませんから」
たとえば、「この人誰だっけ?」という場合にも、「お菓子を持ってきてくれた人。あのお菓子、美味しかった」など、良い記憶や興味と結びついていると、すぐに思い出せることって、たくさんあるはずだ。

とはいえ、考えても、なかなか思い出せないときもある。
自力で思い出せずに、他人に聞いてしまったりすると、ますます脳がさびついてしまいそうな気もするけど……。

これに関して、同外来担当医で、医療法人相生会認知症センター長の中野正剛客員講師は言う。
「もの忘れしたときでも、ヒントがあれば思い出せるものです。自力で思い出すために悩むよりも、ツールを使ったほうが良いですよ。たとえば、若い人なら、インターネットで検索するとか、どうしても覚えておきたいことなら手帳や携帯、PCなどにメモしておくとか。ツールを使う、情報への入り方を考えることも、『あ! そうか!』と思い出す快感も、脳にとって良い刺激になりますから」

逆に、「思い出せない」というネガティブな感情は、ストレスでステロイドホルモンが分泌されるなど、脳や体にとって良くない影響もあるのだそうだ。
「日々忙しくて、覚えること・やらなければいけないことが多いと、あまり重要でないと無意識に判断した人や場所、モノなどを忘れるものです。たとえば、『自分の部署の同僚の名前は出てくるのに、別の部署の人の名前は覚えきれない』というのは、あってしかるべきこと。また、テレビで久しぶりに見たタレントの名前が思い出せなくても、朝青龍とか鳩山首相とか、話題になっている人の名前はわかるでしょう? それに、そもそも人の名前をスラスラと思い出せるということが、はたしてそんなに重要なんでしょうか」

人やモノの名前を思い出せないときは、あれこれ悩むよりも、すぐ調べる――それが、現代人にふさわしい脳の使い方のようです。
(田幸和歌子)
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