関西在住・あるいは関西出身者と話していると、ときどき気になる独特の言い回しがある。
文字にすると関西弁ではなく、標準語のようだが、関西人特有の使い方。
それは「あの子」という言い方だ。

自分より年下の人のことを「あの子、キレイになったよね」とか言うフツウの使い方とは違う。
たとえば、義母は、堺正章について、「あの子もようがんばってるわー」と言う。長嶋茂雄も「あの子もユニークねえ」と。さほど年齢差があるわけでもないのに、しかも、知り合いでもないのに、なぜ「あの子」呼ばわり?

これについて、関西在住のあるライターさんはこんな話をしてくれた。
「関西の人はお笑いにうるさい人が多くて、芸人さんによく『あの子』と言って批評します。大阪人総マネージャーと言いますか……。『あの子、最近調子ええんちゃうの』『あの子、今度のネタはまあまあや』と言う会話が平気で行われています。阪神タイガースの選手なども『あの子』ですね。さすがに本人の前では言わないようですが、井戸端会議的なところでもっぱら『あの子』が使われるみたいです。関西の人はおしなべて『おかん』願望が強いのかも? と思ったりします」

言われてみれば、確かに自分がよく耳にするときの「あの子」も、自分に近しい間柄の人の話題よりは、「芸能人」「芸人」「スポーツ選手」など、見ず知らずの人のことを井戸端会議的に話すケースが多いような気はする。
極めつけは、こんな使い方だ。

「ウチの母親は言わないけど、大阪の周囲のおばちゃんたちは確かによく『あの子』と言っていた。たとえば、ダイアナ妃がなくなったとき、私は阪神百貨店の肉屋でバイトしていたんだけど、おばちゃんたちがどよめきながら 『あの子もほんま不幸やで』と言っていた。『あの子=ダイアナ妃』……」(関西出身・東京在住の編集者)

以上のような例のほかに、「あの子」の使い方として、関西出身・東京在住の別のライターさんは言う。
「これ、当然ながら年上(1歳でも、数ヶ月でも!)が年下に言うもので、一度定着してしまったら、なかなか変更できないってだけかなぁと思います。例えば、A子とB男の出会いとして、A子中学3年、B男中学2年時だったら、普通にA子は『B男なぁ……あの子は頼りないとこあるしなぁ』とか言いますよね。この関係性がその後20年も30年も続くのです。親戚とかでもありますよね。従兄弟が年下だったりした場合は、その相手が50歳になろうと70歳になろうと、社長になろうと教祖になろうと『あの子』なのです。でも、関西の『あの子』って言い方は基本的には『(かわいい)あの子』って意味じゃないかなと感じてます。こう、『保護したらなあかん』という母性とか父性から出る言葉じゃないかと思います」

ちなみに、「あの子という言葉は使わない!」と主張する関西出身・東京在住のデザイナーさんもこんな話をしてくれた。
「私は女の人のことを『おばちゃん』とか言うことあるけど、それは自分とトシが近いから。自分がずっと若いとしたら、失礼で使えないよ。
親愛の情よ」

「おかん」的であり、「親愛の情」「母性」でもある「あの子」呼ばわり。無責任な井戸端会議でも、あったかい言い方なのかも。
(田幸和歌子)

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