「東京は、世界の他の都市に比べ水上交通が未発達なんです」
東京日本橋の日本銀行本店向かい。普段は閉じられている防災船着場から屋根のない水上ボートに乗り込むと、早速、講師の解説が始まった。
今日参加したのは、中央水の都フォーラム主催の「日本橋クルーズと東京スカイツリー船上見学会」。鉄道網も道路網も発達している東京。実は水路も網の目のように張り巡らされているのだが、公共交通が少なく、船から東京を眺める機会は少ない。

日本橋川の両側には、「モダン」という言葉がピッタリきそうな、昭和初期の建築物がたくさん並んでいる。懐かしい感じだ。真上を首都高が走っていて、残念ながら薄暗くてうるさいのだが、船が右へ曲がり亀島川へ入ると、嘘のように静かになった。
ここから東京駅までわずか1kmだという。関東大震災で崩れ落ちた両国橋の残った部分を移設して作られたという「南高橋」をくぐって、隅田川へと船は進む。

待望のスカイツリーが見えてくる。
「スカイツリー、少し曲がって見えませんか? ツリーは下の部分が三角、上の部分が丸いんです。このつなぎ目の部分を、あるアングルから見ると曲がって見えるわけです」
そう言われれば、曲がって見える。でも、それは目の錯覚というわけ。


船は隅田川から小名木川へ。今日のハイライトのひとつ、扇橋閘門(こうもん)に着いた。門から先は、いわゆる海抜ゼロメートル地帯で、川の水面が2メートルほど低くなる。2つの水門で川を仕切ってその間に船を入れ、水をエレベータのように上下させて船を通過させるのだ。パナマ運河と同じしくみの水門がこんなに身近にあったなんて、ちょっとした驚きだ。さらに進んで横十間川に入ると、今度は下町の水辺の風景が広がってくる。
中学生たちが元気な掛け声でボートの練習中。東京の水辺と言われ、海や公園ばかりを想像してきたが、小さな川もこんな形で利用されているのだ。岸辺や橋の上に手を振ると、道行く人がにこやかに振り返してくれる。ほどなくクルーズは折り返し地点へ。ここでサプライズが待っていた……が、それは秘密ということに。

東京タワーに特別展望台がどうしてできたのか、といった高層建築まつわる話や、数ある橋の話題、災害時に水路が果たす役割の重要性など数々の解説を聞きながら、船は往路を戻ってゆく。
今日はかなりの勉強をした気分だ。帰り道は東京湾からの潮が満ち、川の水位がずいぶん上がっていた。船が減速しながら背の低い橋に近づいてゆく。ぶつからずにくぐれるのだろうか。参加者全員が姿勢を低くして、船が橋の下を過ぎるのをじっと待つ。無事に通過!……ホッとする声があがった。


やがて、船は日本橋に戻った。講師の最後の言葉が耳に残る。
「今の学生さんと話をすると、『川の上に首都高が走っていて何がいけないんでしょうか』と逆に聞かれるんです。もう、小さい頃からこの風景が当たり前になっているんですね。水辺に本来の姿を取り戻していかなければならないと思います」

このクルーズは、7、8月にも各2回開催予定。スカイツリーを見ながら、いろいろと考えさせられます。

(R&S)

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