日本も含め、アジアでは主食とする国が多い米。最近は日本人の食生活も変化し、その消費量は減りつつあるものの、私たちの食生活には欠かせない食材だ。


日本でポピュラーなのはジャポニカ米だが、栽培されている稲には、ジャポニカ米が属するアジアイネとアフリカイネの2つがある。アジアイネは大量に収穫しやすく、アフリカイネは乾燥や病害虫に強いのが特長。そんな両者のいわば“いいとこ取り”を目指して開発された「ネリカ米」をご存じだろうか。

ネリカ米とは、「ニュー・ライス・フォー・アフリカ」(「“Ne”w “Ric”e for “A”frica)の文字をとったもの。名前のとおり、アフリカ向けのイネ品種で、1994年に(現)アフリカライスセンターの研究者がアジアイネとアフリカイネの交配に成功し、誕生した。

現在は国際農業研究協議グループ(CGIAR)の一機関であるアフリカライスセンターが育成。
アフリカ各国の研究機関を通して種が配布され、各国機関が普及を進めている。

アフリカライスセンターと共同でネリカ米の改良を進める独立行政法人国際農林水産業研究センター(以下JIRCAS)にその特徴を聞いた。
「生育が早く、乾燥耐性や雑草との競合性が良い、病虫害抵抗性を持っているともいわれますが、正確な分析は十分ではありません。今後、特性を明らかにしながら、品種改良を進めていく必要があります」
現在ある18品種は畑で栽培する陸稲だが、最近は水田栽培に適した新品種も育成されているそう。

見た目は細長く、食感は硬め。
「やわらかくて粘りがある“コシヒカリ”などを食べ慣れている日本人には、やや硬いネリカ米を美味しくないと感じる人が多いかもしれません。
また、なかには香り米として強い香りを持つ品種もあり、これも苦手な日本人が多いでしょう。一方、アフリカの人たちは、コシヒカリよりもネリカ米が美味しいと感じる人が多いようです」
食べ物の美味しさは、食経験や食べ方に左右されるからだ。口にする機会はそうないだろうが、カレーやパエリアにすれば日本人の味覚にも合いそうとのこと。

正確な統計ではないがアフリカライスセンターの資料(2006年)によれば、ネリカ米はギニアやウガンダを中心に、アフリカ全体で約20万ヘクタール栽培されている。
「アフリカでの農業貢献には長い時間がかかります。アジアと違い、稲についての研究や知識が不足がち。
研究者の養成や農家への知識普及など、初歩的な段階から支援を進める必要があります」
文化や習慣の違いから、アジアの知識や技術が定着しにくい場合もあり、現場との会話も不可欠だという。
「ひとつの専門研究だけで解決できることは少なく、基盤整備、栽培、育種、土壌、病害虫、作物体系、さらには経営、経済など社会科学的アプローチも含め、総合的な取り組みが必要です」

アフリカの人々の飢餓・貧困を救う貴重な食糧資源となっているネリカ米。さまざまなハードルを乗り越え、さらなる普及を期待したい。
(古屋江美子)