先日、ペットボトル飲料「キリン 生茶」を飲んでいて、ふと目に留まったのがパッケージの「つたわるフォント」のロゴ。いつのまにこんなロゴが? そもそも、つたわるフォントって何?

調べてみると、博報堂と株式会社タイプバンク、慶應義塾大学が共同で開発したフォントであると判明。
名前のとおり、高齢者や障害者をはじめ、より多くの人に情報を伝えることを目的としたユニバーサルデザイン仕様のフォントだ。

たとえば、文字のつながりを取って明るくしたり(例:「き」の3画目と4画目をつなげない)、漢字とカナの大きさや形状の差別化をはかったり(例:口とロ、夕とタ)、似た形状のものを判別しやすいデザインにしたり(例:ソとン、シとツ)、濁点と反濁点をわかりやすくしたり、細部まで多様な工夫がある。

開発のきっかけを博報堂に聞くと、
「コミュニケーションをユニバーサルデザインの視点から改善しようとすると、基本要素である文字そのものを改善する必要があったのが、そもそものはじまりです」
ユニバーサルデザインをコンセプトにしたフォントは最近増えているが、同フォントの特長は慶應義塾大学の中野泰志教授によって学術的に実証されていることだろう。
「商品パッケージや取り扱い説明書などの文字が小さく読みにくいと感じている生活者の不満、また、それに伴う企業のマーケットロスに対する提案として生まれました」

2009年9月から販売を開始し、すでに約50社が採用。業界は金融・医薬・公共サービス・消費財など多岐にわたる。首都高速道路のキャンペーン告知もその一例。
また、日立グループではカタログ類や電子レンジ・洗濯機・炊飯器など一部商品の本体操作部に同フォントを採用している。

冒頭に触れた「キリン 生茶」は今年4月のリニューアルでフォントを導入。キリンビバレッジ株式会社の広報担当いわく、
「“生茶”は人と環境に配慮したブランドを目指しています。今回、文字数の多いペットボトルの表記についても見やすさを考慮し、つたわるフォントを採用しました。ほかにも、指がすべりにくくて痛くなることなく開けやすいキャップ、持ちやすく注ぎやすい2リットルペットボトルなども合わせて改善しています」
数はまだそれほど多くないもののフォントへの問い合わせもあるほか、ブログでフォントを見つけたことを話題にする人もいて、ユニバーサルデザインに対する関心は着実に高まっている様子。

「文字は、コミュニケーション上の要素であるだけでなく、人と機械の中間にあるユーザーインターフェイスの要素でもあります。
今後、スマートフォンやタブレット端末等のデジタルデバイス、電子書籍といったアプリケーションでの活用はもちろん、デジタルサイネージや発電所・鉄道などの操作部といったBtoBの用途でも採用が広がるのでは」
と博報堂の担当者も期待をよせる。

今後、さらに活躍の場が増えそうな「つたわるフォント」。みなさんの周りでもすでに使われているかもしれませんね。
(古屋江美子)