〈ギャラが入ってくれば入っただけ使い切ってしまう。しかも、当時は何に投資していたかというと“蟹”である〉
スーパーに並んでいた毛ガニに「お前になんか俺様は手が出ないだろう」と挑発された! と、鈴井さんは連日毛ガニを買いまくる。晩飯はカニとビール! という生活を毎日続け、“カニ貧乏”に陥るのであった。
〈キャンプが嫌いだ。テントで野宿するなど信じられない。(中略)一日二日ならまだ我慢も出来ようが、六日間も自然の中に放り込まれるなんて考えられないことなのだ〉
揃って「アウトドア大嫌い」な鈴井さんと、大泉洋さんが大自然に放り込まれた企画「ユーコン川160キロ」(水曜どうでしょう)。カヌー超初心者の二人は川では流され、陸では、ヤブ蚊に強襲され、散々な目に合う。
〈帰国してからも僕は煮え切らなかった。周りは分厚い企画書の一つも早々に提出してくるのだろうと思っていたようだが、僕は動かなかった〉
2005年に鈴井さんは映画監督としてスキルアップすべく、芸能活動を中断し、韓国映画の撮影現場に同行する。帰国後すぐ映画を撮り始めなかった理由とは――。当時の鈴井さんがハマってしまった迷路の正体、そこにあった葛藤が明らかにされる。
“ダメダメ”かと思うと、真っ当。クヨクヨ思い悩んでいたかと思うと、地方と東京の違いなどを軸に鋭い考察を展開する。
〈さまざまな分野において、地方は東京と比較して成熟していないと思う。AAA(トリプルエー)、“曖昧”で“アバウト”で“危うい”のだ。だが、この適当さ、緩さが新しいものを生み出す可能性が今の時代にはあるのではないかと思う〉
ポジティブとネガティブが一瞬で反転する。その思考の振れ幅も読む者を惹きつけてやまない。揺れ動く感情、独特のバランス感覚。鈴井さん自身はこう分析する。
〈煽てられて調子に乗る。躓いては凹む。いつも気持ちは浮き沈みしている。まるでフリーフォールに乗っているかのように、心と体は離れ気持ちが悪い〉
読むほどに、鈴井さんと幼なじみじゃなくて良かった! と痛感する。
ましてや、そこに恋愛感情が加わると、状況はさらに深刻になる。振り回されても翻弄されても、それでも好きで、頼まれてもいないのに貢いだりするわけです。ところが! 向こうは単なる女友達だと思っているというパターン。やりきれない!
と、まあ、妄想が止まらなくなるほどにチャーミング。そんな鈴井さんの魅力がギュッと詰まった一冊です。
さて次回はいよいよ、鈴井さんご本人が登場! 今回の本の話から10月に旗揚げ公演を控えた「OOPARTS」(オーパーツ)のこと、気になるアノ噂まで聞いてみました(島影真奈美)