好みの男性について、「後ろからギュッとされたい」とか「後ろからギュッと抱きしめられるのが理想的」などと語る女性は多いもの。
この「後ろからギュッと抱きしめられる」というのは、昔から、少女マンガでよく見られる王道シチュエーションだ。


ところで、なぜ「後ろから」なのか。

「後ろからギュッ」支持者の女性たちに聞いてみると、「後ろからのほうが可愛いから」「後ろからだと、『急に、不意に』という驚きがあってときめくから」などの意見があった。
また、心理学の本などではよく「前は見えるが、後ろは見えない。『後ろ=無防備』な部分を守ってもらえる安心感」などと説明しているけれど……。

そういえば、お化け屋敷や肝試しでは、最後尾になることを嫌う人が非常に多いし、夜道などでは背後の足音が非常に気になるもの。これは「後ろは見えないから」という恐怖心のはずだ。

逆にいえば、「後ろからギュッ」のシチュエーションは、相手に背を向けている時点ですでに安心感がある関係性というのもあるだろう。
同じ「後ろからギュッ」という行為であっても、好きでない相手であれば、チカン行為にすらなりかねないし。

さらに、この「後ろからギュッ」のシチュエーションについて、ある女性向けマンガの編集者はこんな分析をしてくれた。
「確かに女性は、今も昔も、『後ろから抱きしめられる』というシチュエーションが大好きですよね。少女マンガの定番です。これ、私の編集者仲間の間では『テリィ抱き』と呼んでるんですけどね」
「テリィ抱き」とは?
「テリィは、少女マンガの名作『キャンディ・キャンディ』に出てくる不良っぽさが魅力のテリィ(テリュース)のこと。
主人公・キャンディとお互い思い合いながらも、自分をかばって舞台で大怪我を負った女性・スザナを見捨てられないテリィと、自ら身を引くことを決意するキャンディ。二人が別れる際、階段をかけおりていくキャンディを見送っていたテリィが、突然後ろから抱きしめて泣く『後ろからギュッ』というのが、少女マンガ史に残る切ない別れのシーンなんですよ」
確かに、これは同作品のクライマックス!
このシーンは「向き合って抱き合う別れ」では成立しないものであって、「無防備な背中を守られる安心感・あたたかいぬくもり」と「不意の驚き」に加え、「向き合えない運命を持つ『離れ離れ感』」がポイントになるよう。

思えば、背後をあずける安心感のある相手であっても、交際中の彼氏や結婚した夫に「後ろからギュッ」とされたところで、たいしたトキメキはない……という人も多いのでは?

「テリィ抱き」は、相手への信頼感と不意の驚き、さらに「結ばれない相手」への憧れ・切ない思いがあってこそのトキメキのよう。
やっぱりリアルな恋愛よりも、あくまで少女マンガ的な王道シチュエーションなのかもしれません。
(田幸和歌子)