アニメは基本的に、一つの物語が一本筋で流れるもの。しかしギャルゲーは違います。
最終的にヒロインとラブラブになるストーリーが複数あるため、パラレルワールドを何周もすることになります。
では、ギャルゲーをアニメにするにはどうすればいいか? 誰もが頭を悩ませる難問でした。メインヒロインに焦点を定めた一本の物語を作ったら、他のキャラのハッピーエンドは削らざるをえないのです。
誰もが仕方ないと思っていたこの常識を破壊したのが、現在中盤まで放送中の「アマガミSS 」です。
6人メインヒロインがいるのですが、それぞれのハッピーエンドを見せるためにある手段を取りました。それは4話リセット方式。
仕組みは簡単。4話で一人のヒロインの物語を全部描いてハッピーエンドになったら、次の回でリセット! 何もかもが無かった事になって、次のヒロインのストーリーに進みます。
これすごいメリットがあるんです。それは嫉妬されないということ。それぞれの物語で別のヒロインも毎回知人として登場するのですが、一旦リセットされているので他の子とイチャイチャな関係になってないんですよ。だから嫉妬や喧嘩がなく、安心して一人のヒロインに集中できます。

ゲーム慣れしている人には、ゲームと同じような体験が出来るため気楽に楽しめるのもいいところ。ゲーム慣れしていない人だと、「先週まであんなにラブラブだったあの子がそっけない!」と最初びっくりするかもしれません。

「アマガミSS」は他にも非常に実験的な部分が多い作品。例えば三人目のヒロイン中多紗江ちゃんの話に入ったとき、突然渋い声のナレーションが追加されました。誰かと思ったら中田譲治さん。なんで!? 現時点ではさっぱりわかりません。非常に笑える構図が完成しているので、実験は大成功というところでしょうか。
また、ゲームでは登場しなかった「まんま肉まん」と言う謎の食べ物もほぼ毎回登場。これが名前しか出てこないもんだからあちこちで「それは一体なんだ!?」と言われ続けていますが謎は解明されず投げっぱなし。一度それらしき肉まんは出ましたが未だに謎のままです。さりげなく奇妙な要素が多いのは、視聴者を不可思議な感覚世界に放り込むためなのでしょうか。

リセット方式に実験的要素の追加。
これらを採用していることで、ある一点が非常に引き立ちます。それは主人公の橘さんの奇抜な言動。

ゲームの頃から飛び抜けた思考のキャラとして定評のある橘さん。通常脳内妄想で抑えるところをダダ漏らしにする姿のインパクトは絶大でした。セリフを例としてあげると「ちょっと……アイスをエッチな感じでなめてみたりとか……」とか「危なかった!まさか黒猫を追いかけたら、黒い下着にたどりつくなんて……」などなど。うん、明らかにおかしい。

橘さんの行動が飛躍しすぎていたため、これをどうアニメにするか皆が不思議に思ったのですが、リセット方式採用により、うまいこと劇中で再現されました。

物語自体は4話で完結後時間が最初に巻き戻り、キャラクター同士自体は常に新鮮な関係を毎回築きます。ところが見ているこっちは橘さんの行動を徐々に理解して蓄積しているので、多少おかしな行動に出ても違和感どんどん感じなくなるんですよ。

例えば図書館で「人体の神秘」という科学の本を見て「よし!へそにキスをする!」と絶叫した時には、一体彼の思考回路がどうつながったのか理解できませんでした。しかしそのセリフが出たのは6話。物語的にはやり直しされていても、こちらとしてはすでに蓄積が出来ているので「橘さんだから仕方ないな!」と妙に納得出来ちゃうのです。


お宝本が好きな高校男子という、アラサー世代にガツンとくるような懐かしい感性も素敵な逸品。普段ギャルゲーをやらない人も、高校時代を懐かしむつもりで是非楽しんでみるのをオススメします。
ちなみに主人公橘さんが「さん」呼ばわりなのは、ネット上の多くの男性にいろいろな意味で尊敬されているから。彼の「変態」でありながら「紳士」である様子は、まだまだとどまるところを知らない遙か高みにあるのです。(たまごまご)
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