待ち望んでいた人も多いだろう。
小野不由美の幻の代表作である。
なぜ、幻か!?
モダンホラーの大傑作『屍鬼』や、累計700万部の大ヒット作『十二国記』シリーズで小野不由美のファンになった読者が、手に入れようにも、すでに品切れ。長い間、入手困難になっていたのだ。
さらに「ゴーストハントシリーズ」はマンガ化(いなだ詩穂『ゴーストハント』)され、アニメ化(真野玲監督『ゴーストハント』)もされる。大人気になる。にもかかわらず、原点である原作小説は、入手できず。中古価格は高騰した。
そもそも、何故、復刊されなかったのか?
理由は「ゴーストハント」シリーズ公式サイトの「著者から」のページに書かれていた。
“なにぶん昔の作品ですので、古くもあり拙くもあり、見苦しいところだけでも直そうと手を入れ始めたら大幅改稿になってしまいました。”
大幅改稿!? どのぐらいの改稿だろうか?
ここからは、憶測だ。この改稿、ちょっとした言葉遣いや言い回しを修正したというレベルのものとは違うのではないか。
「ゴーストハントシリーズ」(当時は「悪霊シリーズ」と呼ばれていた)は、講談社X文庫ティーンズハートで発表された。
講談社X文庫ティーンズハートは、少女向け文庫である。
この1989年。少女向け文庫全盛の年だ。「徳間文庫パステルシリーズ」「MOE文庫スイートラブストーリー」「双葉社いちご文庫ティーンズメイト」「学研レモン文庫」などが次々創刊。
「いちご文庫の混線」などと言われた。「いちご」というのは十五。つまり十五歳の少女がメインターゲットだったのだ。
そのため、編集方針によって書くスタイルが限定された。
まず少女が主人公であること。主人公の少女一人称の語りで物語が進むこと。改行を多く、漢字を少なくすること。
「ゴーストハントシリーズ」も、このスタイルで書かれている。
計7作のシリーズは1992年に『悪霊だってヘイキ!』で完結するが、1994年に『悪夢の棲む家』という続編が発表されている。
あとがきに<じつはむかしは、主人公はふつうの女の子でなければいけないとか、その女の子の一人称でなければならないとか、そういうきまりごとがあったんです><巻を追うごとに、編集さんに諦められたのをいいことに改行を取るわ、漢字は増やすはで、その変化を見ていても自分の悪戦苦闘ぶりが如実にあらわれていて、苦笑してしまいます>と書いてある。
各作品毎に独立したホラー小説として大傑作であり、さらにはシリーズ通しての大胆な伏線と謎が潜む大作でもある。
15歳の少女だけではなく、大人も楽しめる骨太のエンタテインメント作品なのだ。
以上の要素から大胆に推測すると、少女向け文庫として書かれた一人称小説だった「ゴーストハントシリーズ」は、部分的な修正ではなくて、ほぼ全文が変化している、というか文体そのものが変わっているのではないかと推測する(一人称ならではの構成があるので、視点までもが変わることはないだろうが)。
ともかくシリーズ復活を喜び、2010年11月19日刊行予定の『ゴーストハント1 旧校舎怪談』を楽しみに待つことにしよう。(米光一成)