1979年にデビューしてから今も変わらない人気を誇っている漫画家・いくえみ綾。過去の『I LOVE HER』はいまでも名作として語られ、『バラ色の明日』は文庫だけでなく、昨年愛蔵版も発売。
mixiではコミックの発売を記念したオフ会も企画されている。
2004年3月から『Cookie』で連載されていた『潔く柔く』の最終巻が、先月発売され、「Cookie」11月号からは新連載「プリンシパル」がスタート。25日には『爛爛』が発売予定など、精力的に活動している。

ダイエットを決意する女の子や、やりたいことが見つからないフリーターの女の子などの身近な人物設定。日常を丁寧に描いているので、共感しやすい。だけでなく、表情や間の取り方など随所に出てくる“いくえみカラー”が読者の心をつかむ、つかむ。セリフも自然な話し言葉なので、何年経っても古びることがない。いくえみマンガが長く愛されている理由だろう。

そして、これらの要素をさらに際立たせているのが、登場人物だ。
なかでも男性キャラクターは絶大な人気がある。mixiのコミュニティ「いくえみ男子」(参加者5710人)、「いくえみ男子二恋ヲシテ。」(参加者16人)の他に、キャラごとのコミュニティまで存在するのだ。

いくえみ男子の特徴は、ボリュームたっぷりのもっさりとした髪型(寝グセがついていることもある)。
服装はおしゃれすぎず、Tシャツにジーパンなどカジュアルでダボっとしたものが多い。性格は無愛想・無表情でつれないタイプや笑顔がかわいい人なつっこいタイプ、一見優しいけれど何を考えているかわからないタイプなどがいる。どのタイプも、ガツガツしていないながらも女子のツボを絶妙につくポイントはきちんとおさえているのだ。
また、「有名人の誰か」を連想させることが多い。それも、佐藤健やunoのCMに出てくる芸能人のような、一般的に「キャーッ!」といわれる人なんかじゃない。奥田民生やくるりの岸田繁、BUMP OF CHICKENの藤原基央など「ROCKIN'ON JAPAN」に載っているようなミュージシャン系だ。
岸田くんに似ているキャラなんて、いままでの少女マンガに存在しましたか? 決して華があるタイプではなく(失礼)、でも一部の女子には絶大な人気がある、あの岸田くんですよ。いくえみ先生、ずるいです。
ちゃんと服を着ている人の描写である、Tシャツの襟元のシワや肩のライン。「こういう男の子、いるよね」と思わせる、ほどよい(ここ重要)生活感と無頓着感がいい。

■おすすめいくえみ男子■
新藤央人(『I LOVE HER』)…主人公の花が引っ越したアパートの隣人で、転校先の高校の担任。生徒からは“新ちゃん”と呼ばれていて仲がよく、校内にファンも多い。
親知らずが痛すぎてイライラし、花にあたってしまう子どもみたいな一面もある。作者が大ファンだという奥田民生(彼の曲とのコラボ作品『スカイウォーカー』もある)にそっくり! コミックの発売が1993年と古い作品にも関わらず、人気投票では上位をキープ。保健室での筆談シーンは必見! 悶えます。
おすすめ箇所 集英社文庫1巻P166~167、236~P242、2巻P39~50、P137~143、P223~232、3巻P26~32、P132~145、P174~181

日山一(『私がいてもいなくても』)…主人公・晶子の友人の彼氏で、漫画家。通称ひーさん。『I LOVE HER』の新ちゃんの時の奥田民生の比ではないが、くるりの岸田繁に似ているといわれている(個人的には、顔よりもTシャツを着た時の首まわりに着目)。アンニュイな雰囲気で、妙な色気がある。大きくて骨ばったひーさんの手はいい! 晶子のように、あの手で頭を撫でられたら好きになっちゃいますよ。仕事が忙しいときの、無精髭にメガネ姿もよし(風呂に入っていないこともある)。いくえみ男子のなかでも人気が高い。
おすすめ箇所 集英社文庫1巻P139~142、2巻P161~171

梶間洋希(『潔く柔く』)…禄の友人で、高校の教師。ひーさんと同じく、大きくてきれいな手をしている。
愛想がなく、目つきも性格もやや悪い。高校時代は“冷血人間”“ノー面”というあだ名がついていて、先輩に屋上に呼び出されたことも。極めて「デレ」の要素が少ないツンデレ。その分、たまにぼそっというひと言や2巻のとあるシーン(下記参照)は、かなりの破壊力!
おすすめ箇所 マーガレット コミックス1巻P66~70、P79、2巻P84~87

個人的に好きなのが、赤沢禄(『潔く柔く』)。
少したれ気味の大きな二重の目で、とにかく笑顔がかわいい! 一見明るく人あたりのよい好青年だけど、過去の事件のせいで、どこか人を寄せ付けないところがある。好きになったカンナに対しては、気持ちを素直にあらわす。シャツイン(しかも、白!)&ボタン全部どめのバーテン姿や、後輩にヤキモチを焼いて「うっさいハゲ」とむくれる無邪気なところなど、禄ちゃんのすることなすことにキュンとさせられっぱなしです。
おすすめ箇所 マーガレット コミックス8巻P46~48、11巻P65~71、P127~P132、P157~159、12巻P121~123、13巻P132~133

この他にも、『カズン』の茄子川さんや『かの人や月』の深町など、まだまだ魅力的なキャラクターはたっくさんいます。
いくえみ男子について一緒に語ってくれる女子、求ム。(畑菜穂子)
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