京都といえば、秋の味覚も楽しみだが、ちょっと不思議なのは、やたらと「親子丼」の名店が多いということだ。
鶏料理の老舗「八起庵」をはじめ、薄味で上品な「とり伊」、変わり親子丼で有名な「とり安」、さらに「鳥岩楼」「ひさご」などなど。
上記のような有名店以外でも、親子丼をウリにしている店は多数あり、なかには親子丼だけのお店もあるほど。
それにしても、なぜ京都で「親子丼」なのか。京都には「丹波黒どり」という地鶏があったりするけれど、決して「京都=鶏」というイメージはない。その理由について、ある料理記者に聞いてみると……。
「京都は家内業が盛んだから店屋物をとることが多く、玉子丼が人気だったということは聞いたことありますが、確かではありません。また、店屋物でも玉子丼が人気なのは鶏料理屋さんが多いからでしょうけど、なぜ多いのかまではわかりません」
また、関西のライターによると、
「十数年前から雑誌やテレビなどで、親子丼特集を組むことが多く、人気となってきた印象があります」とのこと。
でも、もっと前から親子丼の有名店は多い気がするけど……。
そこで、古くより錦市場・京都市中央卸売市場で卸売業務を行っている「食鳥製品商社 鳥長」広報担当者に聞くと、こんな回答が。
「京都では、有精卵などの卵を使ったり、ブロイラーではなく地鶏や軍鶏を使ったりと、卵や鶏肉にこだわっている老舗がもともと多く、それが評判となり、さらに増えていったのではないかと思います」
人気店の影響で、それを真似た店が増えたのだろうか。前述の老舗「八起庵」の店主さんに聞いてみると……。
「こちらでは40年ほど前から、有精卵と、京都八瀬大原・近江安雲川の養鶏場でじっくり育てた食鳥を使って親子丼を作っています。
京都では、この八起庵をはじめ、老舗の鶏料理店が贅沢な食材を使った極上の親子丼を出したことから、親子丼そのものの人気につながって、親子丼の店が増えていったということが一つとしてあるよう。
ちなみに、最近ブームとなっている「卵かけごはん」も、八起庵では40年ほど前から提供しているのだそうだ。
「3週間でヒヨコにかえるような新鮮な有精卵を使った卵かけごはんを出しています。懐石のしめに卵かけごはんを出すような店は、当時は全くありませんでしたが、今はあちこちで卵かけごはんが増えていて、『卵かけごはんの専門店』なんかもできて、行列になってる。なんだか不思議ですよねえ」
人気店の出現で、それを真似る店が増え、ブームとなるというのは、ラーメンなどでも同じこと。
「京都の親子丼」は、老舗の多い京都という立地によって、全体のレベルの底上げがされ、一過性のブームでなく、根づいていったのかもしれません。
(田幸和歌子)