『けいおん!』を筆頭にひらがな4文字漫画が人気の昨今ですが、僕はどうも好きになれない。なんて言うと数千万人の日本人を敵に回すことになるのかもしれませんが、いや、作品がつまらないとは思わないんです。
むしろ面白いと思う。キュートでハートフルな女の子の日常とか、すごく素敵だと思う。だけどいかにも流行に便乗した販売姿勢とかが、天邪鬼な自分にはどうも好きになれないのです。この本を最初に見た時も、『のうぜい!』ってなんだよ、というのが正直な印象でした。

じゃ、なんでそんな気に食わないものを手に取ったかというと、「同人作家のための確定申告ナビ」というサブタイトルが目に入ったから。恥ずかしながら僕も友人と同人誌を作って売る、なんてことをやっている。25歳で。親の扶養の下で。だから、「えっ、僕もカクテイシンコクとかいうのしなきゃいけないの?」って驚いたのです。

そういう難しい事は大人の人に任せておけばいいと思って生きてきたので焦りました。慌てて「確定申告をする必要がある同人作家」という項目を読むと、年収150万円以下で同人誌の利益が年間20万円以下の場合には申告は不要、とある。つまり500円の同人誌を最低でも年に400冊は売らないと申告の義務は発生しないということだ。
しかもその売上から印刷代その他の経費を差し引いた額が利益になるのであり、実際にはもっと売れないといけない。僕の本がそんなに売れる訳はない。

安心と落胆を半分ずつ感じたところで本を閉じてもよかったのだけど、この漫画、結構エッジの効いたボケをしてガンガン横道に逸れるのだ。たとえば経費の項で、自宅を作業場として使う場合に家賃の一部を経費に出来るという説明がある。必要な知識はそれで十分なのだけど、じゃあ自宅を全て作業場として使って路上で寝泊りしたら全てを経費に出来るのか、という極端なところにも踏み込んでボケていく。多分税金ネタで日本一ボケた人なんじゃないだろうか。

その無駄があるから『のうぜい!』は実用的なのに面白い。作者のまことじさんは、もともと税務署で働きながらニコニコ動画に同人ゲーム「東方シリーズ」の二次創作漫画を投稿して人気になった人物だ。具体的な税の仕組みや数字がたくさん出てくる一方で、ギャグ漫画としての比重も大きいから飽きずに繰り返し読めるのだ。

また、僕のような売れない同人作家(あるいは個人事業をやっている人)にも「赤字申告でお金がもらえる?」の項は有益な情報だった。同人活動が赤字の場合でもちゃんと事業所得として確定申告をしておくと、給与所得や数年後の黒字から差し引いて税額を減らすことが出来るそうだ。すげえ、と思ったけど、給料がなくて同人も赤字な人は、<人生の見直しが必要になってくる>と鋭い一言もあり、とても胸に刺さった。
もう遅いよ!

ちなみにこの本、実用書として売られているから全額経費にしていいらしいです。全編カラーでかわいい女の子が見れるのにお勉強と称して読めるので、『けいおん!』ブームに乗れなかったけど本当は素直に「あずにゃんペロペロ」とか言いたかった僕の様な人にもおすすめです。

さらに来週27日には、ハーヴェスト出版の盟友でもある春原ロビンソン(『アニメ95.2』)とまことじさんの対談もアップ予定。プロデュースは文芸評論家で熱烈な東方ファンでも知られる杉江松恋さん。こちらもお楽しみに!(たろちん)
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