子供の頃、正月になるたびに「これは薬のようなもの」と言って、飲まされていたお屠蘇。
子供の口をもっても「甘いなあ」と思っていたこのお屠蘇の正体が、いくつかの生薬を漬けこんだ味醂……と、知ったのは大人になってからだ。


このお屠蘇と同じような製法のものが他にもある。
そのひとつが養命酒。そして広島名物の保命酒。
あまり聞き馴染みのない“保命酒”だが、これは広島県福山市鞆の名産。全国的に見ても珍しい名産品としての薬用酒なのだ。

保命酒の生まれは万治2年(1659年)のことで、その歴史は実に350年以上。

大阪の漢方医の息子、中村吉兵衛氏が鞆のお酒に薬味を加えて作ったのが始まりとされる。一時は藩に保護されて全国に出荷。かのペリーやハリスへのもてなしにも出された歴史があるそうだ。
さらに日本国内だけに留まらず、パリの万博への出品まで果たしたと言う。明治期には20軒もの酒造が生まれ、輸出も積極的に行われたそうだが、現在残った酒造は4軒のみ。

作り方は味醂に桂皮など16種の薬味を漬ける、シンプルな方法。
細かいレシピは各酒造によって異なるそうだが、4軒のうちの1軒、岡本亀太郎本店さんではアンズや梅を漬けこんだ、あっさり味の保命酒も開発。
「昔は甘い味が貴重品でしたので甘口でよかったのですが、最近は甘さ控えめが人気なので」と、時代やニーズにあわせた保命酒作りで知名度アップを図っている。

ただしあくまでもお酒なので、年代問わず誰にでも手にとって貰う……と言うわけにはいかない。
そこで地元では保命酒入りのパンや飴、お菓子などを製造。通販や道の駅などで販売し、活性化を目指す運動も活発だ。

飲み方はそのままのストレートはもちろん、お湯やジュースで割ったり炭酸入りのハイボールにしてみたり。
自由に楽しめるところも人気の理由か。
優しい甘さの味醂に薬味が溶けこんでいるため吸収がよく、冷え込む季節に飲むと身体がぽかぽか温まるそう。
軽く飲んでしまいそうになるが、ただし度数は14度。調子に乗ってゴクゴク飲むと薬用酒といえども回ってしまう。

お屠蘇代わりに、お正月にゆっくり召し上がれ。
(のなかなおみ)