眩しい太陽、青い波。駿河湾に臨む漁業の街、静岡県焼津市では、毎年夏になると『心のふれあい 親子ラジオ体操会』が開催される。

年に一度のこの体操会には、市内のラジオ体操愛好者が一堂に会して行われるラジオ体操の他に、あるイベントが用意されているのだ。
それは表彰式。市内で毎朝行われているラジオ体操の参加日数が1000回や3000回などの大台に達した人たちが、表彰を受けることになっている。

そして去年ここで大変なことが起こった。表彰が始まって以来、初の1万回達成者が誕生したのだ! 単純計算すると、毎日休まず参加したとしてスタンプが1万個たまるのは28年。つまり、32歳で始めた人は還暦……!? 気が遠くなりそうな数字だが、予想ではこれから続々と“1万の壁”突破者が出てくるらしい。

焼津市は日本屈指のラジオ体操地帯である。約14万人の人口に対し、市内にある体操会場は全部で63会場。以前紹介した全国ラジオ体操連盟のホームページに登録されている会場が全国で860会場ほどであることを考えると、この街のラジオ体操への熱心さは相当なものと思われる。

なぜここまでラジオ体操がさかんなのか、焼津市ラジオ体操連盟常任理事 石垣保津美さんに聞いてみた。
「昭和56年に、焼津市で『NHK全国夏期巡回ラジオ体操会』が行われたことがきっかけでした」
このラジオ体操会は盛況のうちに終わり、当時の服部毅一市長から“これからも街をあげてラジオ体操を続けてほしい”と働きかけがあったという。

そしてここから、市と連盟が一丸となった、ラジオ体操普及プロジェクトが始まった。
さきほど紹介した『心のふれあい 親子ラジオ体操会』や、それ以外にも月に一度、参加日数100回や200回を達成した人に記念ワッペンの授与が行われるようになった。
表彰という遠くて長い、くじけそうな道のりの途中で、手近なワッペンという目標があるのは嬉しい。他に特別表彰なども存在するらしく、知らず知らずのうちに体操がやみつきになりそうだ。

そんな活動の積み重ねが実を結び、2008年、焼津での4度目の開催となる『NHK全国夏期巡回ラジオ体操会』には、競技場に市内および県内からなんと4000人が集結。スカイブルー色のユニフォームに身を包んだ焼津市ラジオ体操連盟の皆さんが会場を埋め尽くした。

焼津で初めて『夏期巡回ラジオ体操会』が開かれてから今年で30年。焼津のラジオ体操の歴史をずっと見てきた石垣さんは言う。
「現在までに市長は3人替わり、市のラジオ体操担当部署も教育委員会から福祉保健部スポーツ振興課に移りましたが、いつのときもラジオ体操の精神を引き継いで、普及に努めてくれました。永年にわたる市の取り組みは非常に素晴らしいものだと私は思います」

電話取材後、ワッペンやスタンプ帳などを見せてもらうため、実際に会場を訪れた。空も暗いうちから集まった近隣の皆さんが、石垣さんや連盟理事長の周りを囲むようにして、元気に溌剌とラジオ体操をしている。数十年、雨の日も風の日も、台風のときですら休むことなく続いてきた光景がそこにはあった。

体操を終えた皆さんのさわやかな笑顔を見ながら、焼津のラジオ体操の歴史はこれからも続いていくのだろうな、と思った。

(銀座箱アレン)
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