地方発、全国区となった人気番組「水曜どうでしょう」の新シリーズが4年ぶりにスタートした。時期を同じくして同番組のチーフディレクター“藤やん”こと、藤村忠寿さんの初めての単書『けものみち』も発売(レビューはこちら)。
タレントを騙し、拉致同然で海外ロケに連れ出し、「放送は1カ月半やったら二週間休みます」と宣言……とやりたい放題。“常識”を次々と覆してきた男の正体とは……? じゃじゃじゃじゃあ、藤村さん、どうぞ!

――今回の本は、アウトドア雑誌の取材がきっかけになっているそうですね。
藤村 5年前に取材してくれたライターさんから久しぶりに連絡があって「本を書きませんか」と言われたんです。驚いて、よくよく話を聞いてみると、出版社に転職し、編集者になったという。以前であればお断りしていたと思うんですよ。本を書くなんて、柄じゃありませんから。でも、5年間という歳月を経てもなお覚えていてくれた。……となると、断れませんよねぇ。おかげで大変な目に遭うことになるわけですが(笑)

――“大変な目”というのは……? 
藤村 原稿を書く時期と、“どうでしょう”新シリーズの編集の時期が重なってしまったんです。4年ぶりの新シリーズなのに、よりによって……(笑)。でも、今更「やめます」と言うわけにもいきません。でね、「深く考えるのはやめよう!」と。


――観念して書いたと(笑)。そんなご著書には“外圧”をかわしながら、わが道を行く戦略がいくつも登場します。
藤村 好き勝手やっているように思われますが、僕は根っからの「組織人」なんです。どうすればうまく組織が回るかを考えて行動した結果、はみ出しているように見えるだけ。個人の利益を優先するなら、組織と闘う必要はありませんから。

――フリーランスとして独立するといったことを考えたことは……?
藤村 よくあります。でも、辞めない。例えば、一人でゼロから物語をつくりあげていくのが得意な人もいます。でも、僕が得意なのは、誰かが思い描いたストーリーを具現化すること。会社という集団のなかでチームを組み、より多くの人に「面白い!」と思ってもらえるカタチをつくるのが向いている。そうなると、サラリーマンを辞める理由がないんです。

――「黙って実行。
バレたら叱られればいい」というスタンスを貫くなかで、上司ともめたり、気まずくなったりしたことは?
藤村 多少はありますよ。でも、致命的なことにはならない。イヤな奴だなと思う相手ほど、理解してもらう努力が必要。僕のやり口はこう。日頃から「あなたの敵じゃありません」とアピールしておく。すると、嫌がらせされたとしても、せいぜい“小さな石”を置かれる程度で済む。で、あえて大げさに転んで見せるわけです。「アイタタター! つまづきましたよぉ」と痛がるフリでもしておけば、向こうも満足するでしょう。……と言葉にすると非常に悪いヤツに見えますが、円滑な人間関係を構築する気遣いでもある。ズル賢くはあるが、根っからの悪人ではないわけですな(笑)

――そのズル賢さ(笑)は、一体どこで身につけたものなんでしょうか。
藤村 どこでしょうねぇ。常に他の人を出し抜こうと策略をたてているわけではないんですが……。
ただ、もともと喜怒哀楽の感情をいったん止めて「次はどうする?」と考える特性があるせいか、我ながら“抜け道”にめざとい。「このやり口はオイシイな」とわかると、そのパターンで押し続ける。その結果、周囲からは「藤村はズルい」と言われるわけです(笑)。

――直観的に行動しているようでいて、じつはものすごく引いたところから客観的に観察していますよね。
藤村 番組の中での“藤やん”はほぼ思いつきで行動していますよ。でも、客観視しているところもある。大泉(洋)くんも同じでしょう。素で振舞っているようでいて、どこかで演じている。本気でのめりこんでいる自分と、引いた視点でズル賢く戦略を立てている自分、どちらの時間が長いのか……自分でも正直、よくわからないんです(笑)。

――今回、4年ぶりになる新シリーズでは、新しいスタッフが起用され、総勢7名での旅になりました。
藤村 嬉野さんが一時期、体調を崩していて、今回のロケは病み上がりでの参加だったんです。なので、おそらく一人で全部撮影するのは体力的に厳しいだろうなと判断しました。
本人は何も言わないし、やれと言われればやったでしょう。でも、道中ずっと「疲れた……」と言われ続けるのも面倒くせぇなと(笑)。それに一度、別のカメラマンをつけて、「嬉野さんのしゃべりを全面的に出す」というのもやってみたかった。これまではカメラを回してるからフフンと鼻で笑うことくらいしかできなかったけど、じつはあの人の言葉は相当に面白い。それを前面に押し出してみようという試みでもありました。

――実際に、新チームでロケを行ってみての感想はいかがでしたか?
藤村 いい味を出していると思いますよ。今回新たに投入したカメラマンは鈴井さんや大泉くんのこともよく知っているし、“どうでしょう”における嬉野さんのカメラワークの重要性についてもきちんと理解している。おかげで嬉野さんもすっかりリラックスして、挙句の果てには移動中に寝始める始末。確かに「何もしなくていいですから、僕と一緒にしゃべりましょう」とは言いました。でも、「寝ていてもいい」なんて一言も言ってませんよ!(笑)

後編(5/13掲載予定)に続く!
(島影真奈美)
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