アマゾンといっても、「強くてハダカで速い奴!」じゃなくて、インターネットオンライン書店サイト「アーマーゾーン!」である。
Amazon、本、たくさん、ある。
ランキングつく。でも、どうやってつくか謎。

その謎を解明しようと立ち上がった男が書いた本が出た。
服部哲弥『Amazonランキングの謎を解く』である。
とはいえ、この本、“単純化された数理モデルを現実の社会現象から得たデータとつき合わせる”というところが主眼。
つまり、著者と、(タイトルで手に取った)読者のあいだに関心のズレが生じてしまいがちな本で、著者もそのあたりは気にしており“おおかたの興味に背を向けすぎるのもお叱りを買いそうなので”といった記述が何度も出てくる。
“ポワッソン分布は周知の可能性が高そうだが”って言われてもポワッソン分布という言葉自体はじめて聞いたし、周も知もしてないよッ! って読者であるぼくは正直に言うと数理モデルの部分は理解できてない。
「極限分布が満たす偏微分方程式」とか、「わー画数の多い漢字はかっこいいなー」という情けない読解力で読み進めておりますが、おもしろかった。

「Amazonランキングは複雑なことをしていない」とは思っていたが、ここまでシンプルなモデルで説明がつくとは! という驚きがある。

第一章に登場する「アマゾン書店の(上位以外の)ランキングの大原則」を引用する。
●毎時1回更新
●全部で約100万位ないし数百万位まである
●誰かがアマゾン書店で注文すると、直後のその次の更新で一気に上位へ(数値が減る)
●それ以外は下位へ(数値が増える)
●最近の売れ行きを考慮
●同時刻に一つの順位の本は1点限りで、順位の数値に欠落はない


第2章で提示される“単純な数理モデル”は、こうだ。
“最後に売れた順に並べる”
つまり、「Aという本が売れたらAを1位にする」である。

基本、これだけだ。
Aが売れたら、Aを1位にする。それで、いままで1位だった本は2位、2位だった本は3位になるわけね。全体がずれる。
「それじゃあ、タイミングによっては、めったに売れない本が1位になっちゃうんじゃない?」という疑問が出てくる。
だが、“そういう現象を観測することはあり得ない”
というのは、
“よく売れる書籍があっという間に売れて、すぐ順位を落とす”からである。
しかも、ランキング更新は1時間に1度。
なので、その幅で何冊も売れる本に関しては、もうひとつのランキング抽出方法を加味している(と推測する)。
こちらもシンプルだ。
“注文数の大きい順に並べる”

第4章に、ふたつの表が出てくる。
ひとつは、ランキングの値と最後に売れてからの経過時間の関係。
これによると、70万位だと最後に売れてから72日経過している。

ぼくが書いた『自分だけにしか思いつかないアイデアを見つける方法』って本は、今見ると、約6万位なので、この表によると、最後に売れてから13時間ちょいぐらい経過している。
『Amazonランキングの謎を解く』は4,468位なので、もうひとつの表に対応する。
上位ランキング値と注文頻度の関係。
つまり何分に何冊売れてるか、ということだ。
1000位で30分/冊で、1万位だと7.5時間/冊。
ということは、『Amazonランキングの謎を解く』は、この間。
吉村昭『三陸海岸大津波』が今11位。
表によると、10位だと5秒/冊なので、数秒に1冊、飛ぶように売れてる状態ですよ。すごいなー。

っても、「本当にAmazonは、この本に書いてあるような方法でランキングを算出しているの?」というクエスチョンが出てくる。
著者はAmazon内部の人間ではない。Amazonのランキングを外から観察して、数理モデルを当てはめ、検証している。
だから、この本に書いてあることが、Amazonのランキング算出方法とぴったり一致しているとは限らない。
でも、本書を読むと(計算式とかよく分からないまま読んだぼくでも)、基本的な構造は本書に書かれてある方法だろうな、と納得する。説得力がある。

後半では“ロングテールビジネスが成立しているか否か”について検証。
“ある時刻のランキングの、たとえば下位9割を切り捨てて、上位1割の本だけを残して書店規模を大幅に縮小したとき、売り上げの何割を失うかという問題”を考え、“ランキング下位9割を切り捨てても、売り上げについての機会損失の全体の中での割合は0に近い”という結論を得る。
“ビッグヒットだけを並べた小さな書店でも同等以上の収益が上がるはずだ”という考え方は数理モデルとしては正しいかもしれない。だが、現実的ではないだろう。だって、ビッグヒット以外の本も扱っているという安心感から、ぼくはAmazonを利用しているのだから。
最終章で著者は、こう書く。
“短期的な利益追求の名の下に、ビッグヒット以外のあまたある作品を切り捨てて、頂点までの道のりが短くなるほど思想は弱くなり、ビッグヒットに選ばれた物語は厚みが減って、受け手の要求する知的刺激を満たさなくなれば、文化的にはもちろん、やがて経済的にも衰退するだろう”

Amazonのランキング算出方法だけでなく、物事の考え方、推論の仕方の本でもある。数式部分をわからずに読んでも、その方法論はなんとなく推測できる。
刺激的だ。数理モデルや確率論に詳しい人には、より刺激的な本だろう(と推論する)。(米光一成)
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