先日、東京の阿佐ヶ谷ロフトAを会場に行われた「夜のゲーム大学」というイベントは、ゲームの授業を大学で教えているクリエイターが、学校の外で集まって面白授業をやってみようという内容。2008年に始まって、もう6回目を数える。
イベントのタイトルがタイトルなので、大学生ぐらいの人が多いのかと思ったら、満席の会場には様々なタイプのお客さん。改めてゲームってもう特定の人たちのものではない、色々な人の生活のそばにあるものなんだなと思いました。
講義は3コマ、今回のテーマは「対決!」ということで「ぷよぷよ」、「トレジャーハンターG」、「バロック」などを手がけた米光一成、「弟切草」、「トルネコの大冒険」などを生み出した麻野一哉、「アクアノートの休日」、「巨人のドシン」、「ディシプリン」などを作った飯田和敏の3講師が、それぞれゲストを迎えて講義を行った。
1時間目は「東方vs東方って何?」ということで、同人ソフト・東方シリーズに夢中なライター・杉江松恋が、ほとんど東方について何も知らない米光一成と対決。というか、レクチャー。開始早速、杉江さんから
「この中にルナシューターっていらっしゃいますか?」
など意味不明な専門用語が弾幕のように飛び交う中、
「え? それは何なの?」「どういうこと?」「?」「???」
と解らないことだらけながらも「東方」の輪郭を探っていく米光さん、「果たしてこれ、収拾つくのだろうか……」というスリリングな展開を見せる。
最終的には東方がどういう盛り上がりを起こしている文化なのかを始め、「二次創作において描き分けられるキャラクターの記号が西洋美術で言うところのアトリビュートなのではないか」などなど、その場の対話の中から次々と解釈が生まれ、ただ知るのではなく捉えていく面白さがあった。
杉江さんの東方との出会いや、日々いかに東方を愛して暮らしているか、そういった個人的な事例が、大量の資料とともに聞けたのも僕にとっては貴重に思えた。最後に、自分でも今後、東方の同人誌を作りたいとこぼす杉江さん。どんな本かと聞かれて、
「漫画です。
そこから!? 描けない漫画を始めさせてしまう、人の人生を変えるまでの東方パワーなのか!? 杉江さんほどのハマり方も珍しいと思う…けど、あれだけハマれるのは素敵だと思うぐらいの東方愛だった。
2時間目は「表ゲーム史と裏ゲーム史」対決。ゲームアナリストの平林久和を迎えて行われた。
まずは麻野さんがスーパースピードで表のゲーム史を語るという。第二次世界大戦終結から、様々なゲームが生まれる様子を意外にも丁寧に語ってゆき、かけ足だけどこの世にコンピューターゲームが生まれてからファミコンが生まれるまでの約25年を説明。
初めて知るような事実も多くて会場はスクリーンと麻野さんに集中していたが、ファミコンの説明を終えた次の瞬間、スクリーンに映ったのは今年発表されたばかりのWiiとPSPの最新機種。そういうすっ飛ばし方かよ!と思いつつも、生まれる前の年表を把握できて有意義なスーパースピードだなあと感心。生まれてからのことは比較的みんな知ってますからね。そして裏ゲーム史の平林さんが動き出す。
平林さんは共著で『ゲームの大學』を書かれた、ゲーム学のスペシャリスト。登場するなり熱量の高い話の数々だった。江戸時代の大名・水野忠邦がひな人形を禁止した歴史から「遊びと弾圧」を考えたり、興味深い話が続くが……さすが裏ゲーム史。
3時間目は「国家とゲーム」対決。競技としてのゲーム「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)」の分野で活躍している犬飼博士をゲストに迎えて、日本科学未来館でこの夏から展示が始まる「アナグラのうた〜消えた博士と残された装置〜」についてが語られた。
この展示は演出を飯田さんが携わっていて、空間情報科学の概念を体感型エンターテインメントで理解できるものだという。ゲームが培った最強レベルの「面白さ生み出し能力」を、別の分野に活用する動きは日本でも増えているが、それが公の施設での大型展示で行われることになったストーリーや、それに込められた思いを実際に聞ける、刺激的な体験だった。
展示を担当した未来館の方は、飯田さんたちの意見や判断を受けて、そのエンターテインメント性の高さに驚いたという。たしかに公施設の展示には、どこかで見たようなキャラがなんとなく子供だましな設定を帯びているだけの「ユルいアトラクション」も少なくない。飯田さんたちはそれを見直し、ゲームならではのアプローチで、体験者に強い印象を与える展示を作り上げた…ということが強く語られた。
その手ごたえは相当だったんだと思う。なにせ担当の方はゲームの素晴らしさを見直して、去年のクリスマスにXbox買ったぐらいだ。
そんなこんなで3コマ4時間、あっという間に時間は過ぎて、夜のゲーム大学は閉講。みんな食べたり飲んだりしゃべりながら、濃度の高い時間が過ぎ去った。
(香山哲)