携帯電話に関してもそうだ。パパも、ママも、自分専用の携帯電話を持っている。なのに、どうして、アタチには無いの? アタチの携帯電話は? ねえ、パパ? どうして無いの? どうして、どうして? うえ~ん。
わかった、わかった。あるよ。ある、ある。これがキミ専用の携帯電話だ。といって手渡したのは、自宅にあった紙コップと凧糸でつくった糸電話だった。
思えば、糸電話をつくったのは、小学生以来のこと。記憶を頼りに急遽つくったものだったが、キチンと“通話”はできた。
現在30代の筆者が子供の頃には、もちろん携帯電話など無かった。自宅に固定電話はあったものの、家族全員が使用するもののため、長時間掛けることはできない。しかも、家族の前で使わざるをえないため、会話の中身を聞かれるのも恥ずかしい。好意を持っていた近所に住む女の子と、電話で話したいなと思っていたあの頃。糸電話が使えないかな、なんて思ったりもしたものだ。
そんな子供の頃の思いを胸に秘めつつ、“遠距離糸電話”の実験にトライしてみることにした。筆者が住んでいた実家から、好きだったあの子の自宅まで、ザッと見積もって約100メートル。この距離を、今回の実験の最長距離とする。
「そんな長い距離、無理なんじゃない?」と、冷たく言い放つのは、今回の実験に(ムリヤリ)協力してもらう筆者の妻。
「あー、筆者だが、聞こえるかね」「聞こえるよ」という妻の声は、携帯電話で話すのと大差ないほどにクリアだ。科学的にいうと、音声を糸の振動に変換して伝達し、それから再度音声に変換するのが糸電話の仕組みらしい。ともかく、糸電話ってスゴイな、と単純に感心してしまう。
本来なら10メートル仕様、20メートル仕様と、少しずつ糸を長くして実験を重ねようと考えていたが、糸電話のスゴさにテンションが上がった筆者、子供の頃の恋心もどんどん強まり、もう目標の100メートルを実験してみたくなった。
糸電話は、糸を直線にピンと張らないと声が伝わらない。100メートルともなると、糸電話を持つもの同士、それなりに力を入れて引っ張り合わないと糸が張れないので、紙コップと糸が実験途中ではがれないよう、ガムテープでしっかりと固定する。
さあ、実験。妻は据え置きで、筆者が100メートル先へと向かう。と、突然走り出したくなった。ああ、ユミちゃん。
100メートル先へ到着。“これから話すので紙コップを耳に当ててください”と、妻に手をあげて合図する。高まる鼓動。はたして、100メートルもの遠距離通話が、糸電話で可能なのだろうか。
「もしもし、筆者だが」「聞こえるよ」「あ、ほんとだ。妻の声も聞こえる」「うん。ちゃんと聞こえる」「スゴイな、糸電話って」「ところで、あなた」「うん?」「この100メートルって距離設定。何か根拠はあるの?」「い、いや、なんとなくだけど」「あと、ユミちゃんがどうとかって、つぶやいているの聞こえたけど。
(木村吉貴/studio woofoo)