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手塚が描くと言ってるんだ!! だまって待ってろ!!『ブラック・ジャック創作秘話』

当時その人物が仕事場としていたビルは、深夜12時になると冷房がストップした。そんななか、鉢巻きを締めた彼は汗だくで、貧乏ゆすりをしながら机に向かい、「眼で原稿を喰らうように」ペンを走らせていたという。トレードマークだったはずのベレー帽も仕事中には脱いでいた。髪の毛がやや後退し、小太りで、ヒゲも青々としている。そんな中年男が汗だくになりながら、原稿と格闘している姿はちっともかっこよくない。だがこれこそ誰あろう、“マンガの神様”と呼ばれた巨匠、手塚治虫の創作中の姿なのだった。

手塚治虫が締め切り破りの常習犯だったことは、いまや広く知られるところである。手塚の元チーフアシスタントである福元一義が2009年に刊行した『手塚先生、締め切り過ぎてます!』でも、その手のエピソードはたくさん紹介されており(くわしくは私が以前、「日経ビジネス・オンライン」に寄稿した書評を参照されたい)、まがりなりにも物書き稼業の身としては、背筋がゾクッとするような話が少なくなかった。

「週刊少年チャンピオン」に一昨年から今年にかけて掲載され、このたび単行本化された宮崎克(原作)と吉本浩二(マンガ)による『ブラック・ジャック創作秘話 ~手塚治虫の仕事場から~』もまた、描かれる時代こそ1972年から1980年まで(タイトルどおり『ブラック・ジャック』の連載前後)に限定されているものの、『手塚先生~』とほぼ同趣旨の内容となっている(実際、重複しているエピソードもちらほらある)。とはいえ、絵が加わっているだけにさすがに迫力が違う。また、吉本の絵が手塚マンガとはかけ離れたタッチであることがかえって功を奏し、マンガやアニメの制作現場の壮絶さや、手塚の人間臭さを引き立てているように思った。
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