「ナスは切ったらすぐ水にさらす」とか、「ほうれん草は、アク抜きのために湯がく」とか、「レンコンは切ったら酢水にさらす」とか。

昔から「基本」「常識」のように思ってきた野菜の下ごしらえはいろいろあるけど、最近はテレビの料理番組を見ていても、「あれ? 下ごしらえしなくて良いの?」と思うことがときどきある。

もしかして「下ごしらえ」に対する考え方って変わってきているの?
全国で第一号の野菜ソムリエで、現在は日本野菜ソムリエ協会・講師も務める、『干し野菜手帖』(誠文堂新光社)の著者・KAORUさん(=写真)に聞いた。

「昔に比べて、野菜の下ゆで・下ごしらえをしなくて良くなっているものは、確かにあります。それは、野菜の質自体が変わっていることもあり、下処理しなくてそのまま使える野菜が増えているということはありますね」
変化を以下に挙げてみると……。

 ○ナスは、昔は水にさらしてアク抜きするのが必須と思われていたが、今は「浅漬け向き」や「サラダナス」などがたくさん出ており、アク抜きしなくて良い場合も増えている。
 ○ほうれん草も、生で食べられるサラダ用など、アクの少ないものが出ている。
 ○トマトも、「フルーツトマト」など、何もつけなくても美味しいものが増えている。

このように、野菜自体が昔より身近で扱いやすいものになっていることが考えられるとか。
さらに、好みによる違いは……。

 ○ゴーヤーは、苦みが苦手な人の場合、塩もみしたり、茹でたりするが、苦みが好きな人は直接食べることもある。
 ○レンコンは、色が変わりやすいため、サラダなどにする場合は酢水にさらすのが一般的だが、色がわからない調理の場合、そのままでもOK。水にさらすと粘り成分が抜けてしまうことから、「シャキシャキが好きな人→酢水にさらす」「ねっとりが好きな人→そのまま」など、食感で分ける人も多いという。

ちなみに、下ごしらえではないが、昔からよく聞いたのは、「レタスは刃物で切ると変色する」という説。
そのため、レタスは手でちぎるものだと思ってきたのだが、最近は、カフェ系のごはんなど、包丁で刻んでいる調理法も多い。これはなぜ?
「レタスも刻んですぐ食べれば、問題ありません。包丁も昔と違って、セラミック製など増えているので、鉄の味がダイレクトに野菜にうつったりしないことはあると思います」

昔から言われていた「常識」が変わってきていることについて、KAORUさんは言う。
「おばあちゃんなどは昔、キュウリの端っこを切って、切り口をクルクルあわせてアクを出すなんてことをやっていましたよね。でも、今はアクがない種類が増えています。おばあちゃんの知恵袋的なことは、非常に理にかなったものもありますし、時代とともに変化しているものもあると思うんです。野菜の下ごしらえをしないのは、単に手抜きというわけではなく、鮮度が良いのなら、生でそのままのほうが良いという面もありますよね。わざわざ手間をかけて、旨味やビタミンを損なってしまうこともあるので、栄養面を考えて下処理をしないという人もいます」

野菜も変わってきているいま、必ずしも昔のやり方にとらわれるのではなく、その野菜がいちばん美味しく食べられる方法を探っていくことが大切なのかも。
(田幸和歌子)
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