もし、もしですよ。
あなたが仕事に出かけている時、だれかがあなたの部屋の中に入って過ごしていたらどうしますか……。

と、こう書くとまるでホラーですね。知らない誰かがキッチンを使い、お風呂に入って、いなくなった後に帰ってきたら今まで通り……キャー怖い!
そうだよ怖いよ犯罪だよ不法侵入だよ。訴えてやるね!

しかしそれは、あくまでも侵入された側の見方です。
この今井大輔の『ヒル』というマンガ、正反対なんです。
侵入して、人の家でのうのうと暮らしている側の人間の、生活の物語なのです。
ヒロインの佐倉葉子は、すっごくどこにでもいそうな女性。
ノリといい明るさといい考え方の軽さといい、まだ少女に近いくらい天真爛漫。
彼女は今、他人の家に侵入して転々と暮らす日々を送っています。
では、彼女から侵入して暮らすための3つの秘策を学びましょう。

1・使った痕跡は残さない。
目をつけていた一室から家主が出たのを確認すると、嬉しそうにするりと部屋に近づき合鍵でオープン。ただいまーと言わんばかりに扉を開けます。
こじ開けてはいけません。
洗面所を使う場合は、使った痕跡として濡れていてはまずいから、ちゃんと拭いておく。シャンプーなどは減ったのが気づかれないようにそっと。
トイレも要注意ですね。水は不自然に濡れているとバレるので危険です。
物などもあまりずらさない。
あくまでその場所で過ごすだけ。盗むのも避ける。
これで時間内に出てしまえばほぼバレないんですが、さすがに毎回同じ家を使っているとバレやすいので、数件をぐるぐる回します。ここがポイント!
多少の不自然さがあっても、たまーにならバレないもんです。

2・侵入相手の生活時間帯をよく調べておく
侵入相手の生活サイクルのチェックは超大事。
まず帰ってくる時間がどのくらいかを調べて確認しておきます。
長時間出勤の相手の家なら多少寝ても大丈夫。
時間が来たら他の開いている部屋へ。夜勤学生などだと夜自然に過ごせますね。時間があればゲームをするのもいいでしょう。
ようは何時に出て何時に帰るかをしっかり見極めさえすればOK。慣れてしまえば大したことありません。

たまたま合鍵を持っている恋人なんかが来ても、焦らず騒がずそーっと出ていきましょう。

3・他の侵入相手のテリトリーとかぶらない。
自分だけが侵入しているとは限りません。他の侵入生活を送っている人が、同じ家を使っている場合もあります。
その場合は侵入の際、チェックとしてノックをしましょう。
先に侵入して潜んでいる人はノックで存在をアピールし、顔を合わせずそっと帰ります。

お互いにはとにかく不干渉。接触は大惨事につながります。
彼女のように。

はい、これで明日から侵入生活を実践……したらだめですよ捕まりますよ犯罪ですよ。
この侵入生活者を作中で『ヒル』と呼びます。
なるほど、寄生ですか。しかも相手に気づかれないようにこっそりとね。
にしても、侵入された側からしたらたまったものじゃない腹立たしいシチュエーションなのに、侵入側視点だとこうも面白いものかというのは目からウロコ。
ふと見かけたOLのお姉さんが着ていた服が綺麗だったから、侵入して着てみるとか、いやこりゃまたライトに生活充実しているじゃないですか。幸せそうね。

まー、そんな生活をしている人間がまっとうなわけがなく。
彼女を含む、『ヒル』生活者たちは「死んだ人間」です。
幽霊じゃないんだぜ。でも死んでいるのです。
どういうことかは見ればわかります。

危険と隣り合わせ、でも快適なヒルライフ。
実際にできないからこそ、マンガの中で楽しんでみてください。
もっとも、怖い思いもするかもしれないけどね……。
(たまごまご)