長寿大国ニッポン! 厚生労働省の調査によると、本年の百歳以上の高齢者数は9月15日時点で4万7756人と、41年連続で過去最多を更新したそうです。国内最高齢の長谷川チヨノさんは114歳で、男性の最高齢は誕生日が5カ月遅い木村次郎右衛門さん。
木村さんは今年4月にギネス社の男性世界最高齢者に認定されているんだとか。すっげー。

こうした背景から、書店でも高齢者を扱った書籍、いわゆる「老人本」が元気です。トーハンの2011年上半期ベストセラーによると、総合部門の4位と5位に「老いの才覚」(曽野綾子/ベストセラーズ)、「くじけないで」(柴田トヨ/飛鳥新社)がランクイン。新刊では「死にたい老人」(木谷恭介/幻冬舎新書)が書店で目につきます。

でもでも、いま一番パワフルで影響力のある百歳以上の老人といえば、11月16日生まれで、今年102歳になる、詩人のまど・みちおさんじゃないでしょうか。
まどさんの名前を知らなくても、「ぞうさん」「一年生になったら」などの童謡は、誰もが一度は耳にしたことがあるはず。教科書で詩を朗読した人も多いんじゃないかなあ。

そのまどさん、100歳を越えてなお創作意欲を衰えさせることなく、毎日いろんなことに不思議がり、詩作に励まれているそうです。その元気な姿は、NHKスペシャル「ふしぎがり~まど・みちお百歳の詩」で2009年1月に放映されました。その内容をもとに構成された著書『百歳日記』(NHK新書)も2010年11月に出版されています。

実はまどさんの生まれ故郷って僕の故郷、山口県徳山市(現・周南市)なんです。
いわば郷土が生んだ大詩人。なんたって「児童文学のノーベル賞」と言われる「国際アンデルセン賞作家賞」を1994年、日本人として初めて受賞したほどですから。市内にも、ゆかりの場所がたくさんあります。帰省ついでに「聖地巡礼」してみました。

まずはJR徳山駅北口から徒歩15分ほどの場所にある、生家跡に行ってみました。今は取り壊されて住宅になっていますが、そこからほど近い自治会館の前に、生家跡の説明板が詩「てんぷらぴりぴり」と共に立っています。
僕の実家は温泉郷で「周南の奥座敷」と言われる湯野地区なんですが、まどさんの生家は当時から開けていたんですね。

仕事の都合で両親と兄弟が台湾に移住し、祖父と二人で幼少期をすごしたまどさん。この頃の思い出が詩作の原点になっていると言われます。子供時代に遊び場だった福田寺にも足を伸ばしてみました。ちょっと小高い丘になっていて、イメージは裏山。ここでも詩「コスモス」の説明板がありましたよ。


こんな風に、まどさんゆかりの市内5カ所に詩と説明板が設置され、全部回るとちょっとしたスタンプラリーといったところ。「ぞうさん」つながりで徳山動物園の象舎前には、まどさんが即興で詠んだという「とくやまのまるみみぞうさん」の詩碑が設置されていました。ちなみに動物園に足を踏み入れたのは23年ぶり。いや、懐かしいですね。

また、まどさんが通った岐陽尋常高等小学校(現・徳山小学校)では特別に、大きな額縁に入って飾られた、まどさん直筆の「ぞうさん」の詩と、児童あての長文の手紙を見せていただきました。まどさんが84歳の時に来校された際に贈られたもので、ひらがなで綴られたシンプルな文章なんですが、これが詩と同じで、心を打つんです。
これ、子供の時と大人の時では、絶対にとらえ方が違うだろうなあ。

徳山小学校では11月8日に、「ふるさと文学体験学習会」の一環として、 絵本編集者で翻訳家の松田素子さんをお呼びして、 「“つながってるんだよ"って、まどさんは言った」という講演授業を行うんだそうです。さらに周南市には童謡文学の研究を行い、朗読、鑑賞や学校等での「童謡出前授業」などを展開する「まど・みちお研究会」があるんだとか。この研究会、実は10月14日に僕の母校、湯野小学校でも授業をしているんです。

さらに11月6日には周南市文化会館で「こどもの詩 周南賞」を発表する「こどものうたフェスティバルー詩と歌と音楽とー」というイベントが開かれ、まどさんの詩の朗読会も行われるんだとか。谷川賢作さん(作曲家・ピアニスト)、木坂涼(詩人・絵本作家)、おおたか静流(シンガー&ヴォイスアーティスト)の3名のゲストに、長谷川義史(絵本作家)のイラストで、楽しいステージになりそう。
しかもうれしい入場無料なんです。

こんなふうに地元・周南市では、まどさんの詩がしっかり根付いて、語り継がれているんだなあと、改めて驚きました。実際、僕も高校卒業と同時に地元を離れて、後は年に1-2回帰省するくらいだったんですが、まどさんを巡って市内を数時間歩いただけで、昔の恩師を知る方に出逢ったり、同級生を間につながったりと、不思議な縁のオンパレード。まどさんに導かれているような、気持ちが癒される時間が過ごせました。

ぜひ機会があれば周南市に足を運んでいただきたいんですが、なかなかそうもいきませんよね。まあ、詩の鑑賞法に決まりはないわけで、百人が百人、思ったように意味を捉えればOK。ただし、より深くまどさんの世界を知りたければ、ぜひ冒頭に紹介した「百歳日記」と、NHKスペシャル「ふしぎがり」を鑑賞されるのをオススメします。番組はNHKオンデマンドに収録されており、インターネットで見られますよ。

番組の内容と追加取材をもとに構成されただけあって、番組と書籍は重複する部分も多いんですが、そこは映像と本というメディアの違いがありますから。同じテーマを違った視点で、より複合的に体験できます。活字だとホントに優しい人というイメージを受けるんですが、番組では泣いたり、笑ったり、きつい顔をして過去を振り返ったり、カメラがぐいぐい迫っていきます。NHKオンデマンド万歳! と、はじめて思いました。

一方で書籍は、まどさんの一人語りで展開するぶん、より深く内面にせまれます。百歳を越えてなお活躍中の、まどさんの創作に対する思いや、人柄に触れられますよ。そんなまどさんから、「人まね、マンネリはいかん」なんて言われたら、思わず襟を正しちゃいますよね。全クリエイターは必読です。

忘れてはいけないのが誌面を色どる、まどさんの絵の数々。詩人(一般には「童謡の人」かな?)として知られるまどさんですが、50代から抽象画に没頭しはじめ、数々の作品を残されているんですよ。その一端は「『まど・みちお画集』とおいところ」(新潮社)で触れられます。また周南市美術博物館では2009年11月に絵画展「まど・みちおえてん」を開催。ホームページでは特設ページ「まど・みちお100の世界」があるほか、図録の通信販売も行われています。

さすがに今は本格的な絵画制作とはいかないようですが、丸や直線、ハート型などで描かれた、あたたかい抽象画は健在です。しかも、このどれもがリズミカルで、今にも話しかけてきそうなんですよ。その昔、絵が簡略化されて漢字が生まれたように、まどさんの絵は言葉の卵なのかもしれませんね。

というわけで、年をとるのも悪いことばかりじゃない。こんなお年寄りになりたいなあ、と思わせてくれること請け合いです。みなさんも、まどさんの世界や人柄に触れて、百歳を越えるエネルギーを、ぜひわけてもらってください。
(小野憲史)