11月3日、東京流通センター(TRC)にて同人誌即売会「第13回文学フリマ」が開催された。この日は、2002年に第1回文学フリマが東京・渋谷の青山ブックセンターで開かれてから丸10年を迎えた節目の日。
回を追うごとに増え続ける参加者に対応するべく、会場も青山BCから東京都中小企業振興公社・秋葉原庁舎、大田区産業プラザPiOと転々とし、参加サークルが600を超えた今回はさらに大きなキャパシティを持つTRCでの開催となった。

さて、昨年12月の前々回今年6月の前回に続き今回の文学フリマでも、わたし(近藤)をふくめエキレビ!のライターがこれぞと思う本を見つけてきて紹介することになった。いざ各ライターから紹介文を集めてみたところ、2次創作的なもの、アニメのDVD、ゾンビもの、ホラーマンガ、歌集の副読本……と今回もまたバラエティに富んだセレクトとなった。公式サイトにも掲げられているように、やはり文学フリマには参加者一人ひとりが信じる「文学」があるようだ。

というわけで、ここからは各ライターによるおすすめ本の紹介文を掲載する。なお各文章の冒頭には本のタイトルとともに、カッコ内にその本を販売していたサークル名を示した。


香山哲のおすすめ本】 『名探偵コナン 閃光の臨界点』(激情版コナン製作委員会)
コナンをほとんど知らないので聞いてみたら「劇場版名探偵コナンのオリジナルのパンフレットです」と言う。それでもよく分からないので読んでみたら、「過去15作の劇場版コナンの犯人が全部一度に脱獄して殺される謎の事件」という勝手に考えた「架空の16作目の映画」を想定したパンフレットって感じ。ただ、単なる2次創作ではなく、架空の16作目を解説することによって今までのコナン映画のレビュー集に仕立てている作りが面白かった。映画のコナンは過去15作ほど、毎年ゴールデンウィークに上映され、劇場版は派手なシーンが必要なために必ず犯人はビルなどの爆破を行うんだけど、「なぜ毎年GWに集中して事件が起こるのか」、「探偵物における爆弾の役割」など人気アニメ映画が盛り上がるために必要なパーツの考察がわりと真剣になされていて、一周回って一般性が出ている不思議な冊子。

たまごまごのおすすめ本】 沼田友『ぶらりん』(沼田友のショートアニメーション
文フリ会場でCDやDVD自体は売っている人多いようですが、これはパッケージを見てもなんだかさっぱりわからない。
なんじゃろな、と思ったらなんと3Dアニメーションでした。
なるほど、そういう表現手法もありなのか!
といってもアクションとかダンスではなく、内容は文学そのもの。一対一で語り合ったり、机に座ってモノローグを語るなどして、思いを語る作品で、表題作「ぶらりん」は学生の鬱屈を描いていてじんわりきます。
なら対話形式の小説でやればいいじゃない、と思われるかもしれませんが、これ映像でやるのに意義があるんですよ。同じセリフをそのまま文章にしても成立するくらいではあるんですが、とある仕掛けがされていて、そここそが一番描きたかったところなはず。一本取られました。
こういう文学表現もあるんだなーとしみじみ楽しみました。
一本一本は非常に短いのですぐ見られますが、おまけで入っているボーナストラックが30分という力作でまたビビりました。

tk_zombieのおすすめ本】 『Cafe of the Dead』(東部市場
ゾンビがテーマのものが4つほどあった前回から一転して今回はフリーペーパーひとつしか見つけられず、文学フリマにゾンビの波が来ていると思っていたのははかない夢でした。今回入手したのは東部市場さんの「Cafe of the Dead」。前回のvol.1に引き続きvol.2です。切なげな女性ゾンビの表紙、メイドがゾンビをチェーンソウでぶった切るクレイアニメ「チェーンソーメイド」のていえぬさんのインタビューなど内容も充実。サイトにいけばPDF版を無料で入手することもできます。
オススメです。

畑菜穂子のおすすめ本】 毒島メルティー『ミステリー☆ハンター 神田川小五郎シリーズ ぼくは 蝋人形』(B.M.W
極度のホラー恐怖症の山田シャルル・明夫。友人たちにむりやり連れて行かれた蝋人形館で恐怖の極限をこえてしまった明夫は……。
ホラーマンガらしいのだけど、ストーリー以上に気になる箇所がいっぱい。三角形と長方形の雑な東京タワーに、まったく似てないダイアナ妃やガンジー、ヤマネ(誰?)の蝋人形といった、うまいのかヘタなのかわからない絵。神田川小五郎が缶コーヒーを手に取るシーン(しかも手のアップ)だけで1ページ使うなど、コマ割りもおかしい。
そして、なぜか常にビクビクしている助手の小栗バンディッツ。徳南晴一郎の『怪談人間時計』のような、どこか滑稽な印象を受けます。ツッコミどころ満載でお腹いっぱいになりそうなのに、ついつい読み進めてしまうから不思議。よくよく見ると、使われているのは「◯◯商会」というチラシの裏紙でした。もう……。

島影真奈美のおすすめ本】 『にんにルーム 創刊号』(にんにルーム
雪船えまさんの歌集『たんぽるぽる』の副読本。
雪船さんの年譜があったり、重要語を集めた辞典があったり。いろんなマンガ家さんたちに『たんぽるぽる』に出てくる好きな歌一首に対して、思い思いのマンガを描いてもらったというページが楽しい。まっすぐ読み進めるというよりは、あっちをめくり、こっちをめくりしながら読みたい一冊です。

近藤正高のおすすめ本】 『HK 2』(HK)、『クラシック冥曲案内 ハズす側の論理』(管絃樂團“響”)
今回もまたとりあげたい本が多すぎる。前回、とみさわ昭人さんが紹介していたNEKOPLAさんの最新刊『タイムカン読本』(日清食品の幻の商品“タイムカン”にまつわるもろもろを記録した冊子。衝撃の事実が明かされている)をはじめ、前々回で同じくとみさわさんが紹介していたライターの成松哲さんによる『kids these days! vol.1 1/2』では、初の地方取材として佐賀で活躍する女子高生バンドへのインタビューが収録されている。また、以前よりエキレビ!で話題の『鬼畜!ヤリマン道場』は今回「外伝」として、主宰の龍堂薫子さんのほかゲストライターによる体験手記を集めた冊子を刊行していた。
で、今回の“収穫”のなかでもとくに紹介したいのが次の2冊(結局、1冊に絞りこめなかった……)。ひとつは、『HK』という雑誌のvol.2。表紙からして、全裸(もちろん隠すべきところは隠してあるけど)の男女の集団写真が使われ目を引く。彼・彼女らは渋谷のシェアハウス「渋家(シブハウス)」で共同生活を営む人たちだという。同誌では、この渋家に編集長の吉岡命さんが1週間泊まりこんでの密着取材を敢行、住民への個別インタビューもあったりしてガッツリ読ませる。
もう1冊の『ハズす側の論理』は、現役の新聞記者と管弦楽団在籍の演奏家によるコンビがクラシックの名曲を紹介するというもの。その内容は、ビゼーの歌劇「カルメン」をサスペンスドラマ風に翻案してみせたり、“北方先生”がロリコン青年に説教しつつも、同じくロリコンであったとブルックナーの交響曲を薦めるという人生相談風のものがあったりと、とにかく自由だ。クラシックに疎いわたしもこれならとっつきやすい。あ、ドヴォルザークが鉄道マニアだったなんて初めて知ったよ!

以上、いかがであっただろうか。次回、文学フリマへの参加を考えているという人の参考になれば幸いだ。

そういえば今回の文学フリマでは会場内に初めてケータリングが出て、昼時ともなると長い列ができていた(その列にひるんでしまったわたしは、結局近くのコンビニでカップ麺を買って、屋外で食べたのでした。むなしい……)。ちなみに次回の文学フリマは来年5月6日(日)、今回と同じく東京流通センター・第二展示場にて開催される。ただし開催当日は展示場に隣接するセンタービルがメンテナンスのため、同ビル内にあるコンビニもタリーズコーヒーも休業するのだとか。ひょっとすると次回の文フリへは、お弁当を持って出かけたほうがいいかもしれませんねえ。(近藤正高)