ルールが簡単で、展開が多様性に富み、ゲームバランスが完璧。

名作と言われる対戦ゲームの条件です。
まあ、文字にすれば簡単なんですけどね。これがいかにハードルが高いか、世にあふれる凡百のゲームを見るだけで、なんとなく想像がつくというモンです。

そんな中、この条件をあっさりクリアした、驚きのゲームが登場しました。それが今回レビューするiPhoneアプリ「CubeSieger(キューブシーガー)」です。これ、定番ボードゲームとして、長く愛される作品になりそうです。

ゲームは対戦ボードゲームで、6×6マスのゲーム盤で行います。自分のコマを上下左右斜めに一マスずつ動かして、任意の場所にキューブを配置。これを互いに繰り返していき、相手を移動できなくさせれば勝ちです。コマの周囲をキューブで囲まれても、キューブの上に移動させられます。一方でキューブは同じマスに3個まで積むことができます。

でも、これだけだと駆け引きの要素が皆無ですよね。ポイントは、コマを載せられるのは2段目のキューブまでで、3段目の上には載せられないこと。
一度、今いる地点より上のキューブに載ったら、それより下のキューブには、降りられないこと。つまり上れば上るほど不利になって、追い詰められて、負けちゃうんです。

ルールはこれだけ。ホントに簡単でしょう? でも、これが頭を使うんですよね。キューブで相手の逃げ場をふさぐか、それとも自分の逃げ道を作るか。文字通り、一手のミスが勝敗に直結します。対戦プレイでもワンプレイ15分程度で終わるので、ちょっとした空き時間にプレイするのにぴったりです。家族で遊ぶにも最適ですよ。

本作はゲームデザイン的に言うと、プレイヤー数が二人で、運の要素が皆無です。加えて全ての条件があらかじめ、双方のプレイヤーに開示されています。いわば将棋やチェス、オセロなどと同じジャンルに属しています。

んでもって、この手のゲームは専門用語で「二人零和有限確定完全情報ゲーム」とよび、理論的には完全に先読みが可能です。
互いに最善手を指し続けた場合、五目並べは先手必勝、三目並べとチェッカーは引き分け、オセロは後手必勝なんだとか。エキレビでも話題になった「どうぶつしょうぎ」は、78手で後手必勝なんですね。本作はどうなんでしょうか。そのうち解明される日が来るかもしれません。

もっとも、だから「つまらない」わけではないので、誤解のなきよう。それどころか、こういった条件で「間口が広く、奥が深い」ゲームを作るのって、ホントに難しいんです。開発者には最大限の賞賛を送りましょう。もっとも、ある程度「定石」がわかってないと、対人戦では序盤が間延びしがちなので、要注意。まずはコンピュータ相手に研鑽を積んでから、他人に挑みたいところです。

ゲームモードはCOM戦(難易度は4段階)と対人戦、通信対戦に加えて、パズル感覚で楽しめ、定石も身につく「詰めキューブ」、そしてキューブを自由に積み上げられる「積み木モード」の4種類。iPhone版に加えてiPad版もあります。本体を挟んでの対人戦には、iPad版の方が向いているかもしれませんね。


もう一つ、本作の特徴はメインメニューのユーザー・インターフェース(UI)が非常に秀逸なこと。キューブを盤上で動かしてモードを選ぶ、ありそうでなかった、まさにiPhoneならではのUIです。また「プロ用ゲームツクール」ともいうべき、Unityというゲームエンジンが使われている点もポイントです。基本となるゲーム部分だけなら、非常に短期間で作れるんじゃないかな。必要なのは技術じゃなくて、アイディアってことですね。

また本作はアナログゲームではなく、アプリから生まれた点でもユニークです。実際に木やボール紙などで自作するのも、おもしろそう。こんな風に優れたアナログゲームが、日本でもどんどん発売されるようになればいいんですが、欲は言うまい。もっともっと優れた国産ボードゲームが、まずはアプリから誕生してほしいところです。

ただ一つだけ、ホントに一つだけ希望点を上げるとしたら、対人戦モードだけでなく、一人用モードでも「Undo」機能を付けてほしいんです。いや、UI自体は秀逸なんですが、それでもうっかり、キューブの配置を間違えちゃうことがあるんですよ。ホントに1手のミスが命取りなので、イラッときちゃうんですよね。
修正いただければ「全俺」が喜びますので、よろしくお願いします~。
(小野憲史)
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