そんな発想から、吉祥寺をフィールドにつくられたのが「街フォント」。街中で見かける看板の文字を撮影して取り出し、カタカナとアルファベットのフォントとしてまとめたものだ。どこかで見たような文字や、一見解読できないような文字もあり、一文字一文字が強い個性を放っている。統一感のないようにも見えるが、「Excite Bit コネタ」とこのフォントを使って実際に書いてみると、意外に全体としての雰囲気が出てくるようにも思えるから面白い。
「街フォント」を手掛けたのは、街をフィールドに活動するクリエイティブユニット「ミリメーター」の笠置秀紀さんと宮口明子さん。2008年頃からフィールドワークを重ね、PC用の「街フォント―吉祥寺」と、1冊のブックにまとめあげた。ブックには、文字ごとの位置情報も記載されており、街と文字をリンクさせた作品に仕上がっている。
この街フォント、様々な街を舞台につくってみると、街の個性が表れてくるかもしれない。思い立った私はさっそく、自分の住む茅ヶ崎市で看板を探し歩いてみることにした。笠置さんに教えを請うと「他の人にも共感してもらえるのが重要なので、まずはその街でみんなが知っているような場所を選ぶといいですよ。
それにしてもこの作業、単純ながらもたくさんの発見が得られるものだった。意外なお店でおしゃれなフォントが使われていたり、それまで素通りしていたお店が、妙に気になってしまったり。いつもの街を、いつもと全く違う視点で眺めることができた。笠置さんと宮口さんも、約250枚の写真を撮影したフィールドワークの中で、古い麻雀屋さんなど、雑誌に載っていないようなお店にこそ、面白い発見があったと言う。街フォントを見た方からは、「文字の一つひとつを見ていると、その場所の風景や匂いが思い浮かんでくる」という声があるとのこと。無意識のうちに、看板の文字は体験と共に私たちの脳裏に焼き付いているのかもしれない。
もうひとつ、「場所」という視点の他に、この取り組みの面白さは「時間」にもある。例えば街フォントの「ン」の文字は、吉祥寺の商店街「サンロード」の看板から採用したのだが、現在のものではなく、古い看板のものを使ったのだとか。フィールドワークを開始してから現在までの間に、廃業となってしまったお店もいくつかあるとのこと。
様々な可能性を感じる「街フォント」。現在、非営利目的に限り、ミリメーターのホームページからダウンロード可能となっているので、ぜひお試しを。そして興味を持ったら、あなたの街でもぜひトライしてみてください。投稿できる仕組みも、ホームページ内に近日中にオープンとのことです。
いつかあなたの街からもフォントが生まれ、街の人に愛されるようになる日が来るかもしれませんね。
(池田美砂子)