ダムカードの本が出た!
その名も『ダムカード大全集』。実に明解で勇ましい書名の完全ダムカード・カタログだ。
全142ページオールカラー。北は北海道・大雪ダムから、南は沖縄・大保ダムまで、ダムダムダムダム、めくれどめくれどダムカード。5年前にこの本があったら、わたしのダムカード集めもずいぶん楽だったんだけどなー。

と、読者おいてけぼりで盛り上がっておりますが、そもそも「ダムカード」とは何なのか? ご存じない方が多いと思うので、ご説明いたします。

ダムカードというのはダムのトレーディングカード(トレカ)のこと。そもそもダムカードは、日本でダムを管理・運営する国土交通省と水資源機構が全国111ヶ所のダムをカードにして、見学の記念に持ち帰ることができるものとして配布を開始した。
ダムっていうのは、たいてい山奥にあって行き辛いものだし、環境保護的な観点から批判を受けることもある。それを和らげるためというか、ようするに「皆さんもっとダムに来て、ダムのことを知ってくださいね」という目的で作られたのがダムカードというわけだ。

2007年に111ヶ所のダムで配布されるところからスタートしたダムカードだけど、その後、国土交通省と水資源機構以外にも、地方自治体やJ-POWOR(電源開発株式会社)なども配布するようになり、現在では200ヶ所以上のダムで配布中だという。
そして、本書には2011年11月の時点までに発行された公式のダムカード212枚の他に、非公式に作られたカード数枚も掲載されている。ホント、これ一冊あればダムカードのことがなんでもわかるんだ。

掲載されたダムカード1枚1枚の説明も、必要にして十分なだけの情報量が詰め込まれている。
カードの両面にレイアウトされた記号や情報の読み方はもちろんのこと、それぞれのダムのスペックや、現地を訪問する際の注意点(併設施設の案内、カード配布場所のガイド、景色の見所、おまけに冬期の道路封鎖状況まで!)も盛り込まれている。

と、このように本書がコレクション図鑑として抜かり無いクオリティであるのもさることながら、ダム見学に出掛ける際のガイドブックとしても非常にハイレベルな作りになっているのには理由がある。それは、本書の著者である宮島咲という人物が日本有数のダムマニアだからだ。

ダムのマニアとしては、2000年から開設されているダムサイトの管理人で、写真集『ダム』でも知られる萩原雅紀氏がいるが、宮島氏もまたダムの魅力にとりつかれた一人で、日本各地のダムを訪問してはダムマニアというサイトでダムの魅力の普及に努めてきた。二人は、ダムファンの間でもとくに名を知られた人物だ。

そんな二人がダムにまつわるトークライブを開催した際に、壇上で「ダムに行くともらえるカードがあるといいな……」という願望をポロッと漏らしたところ、それが水資源機構の職員の耳に入った。それをきっかけとして、ダムカードの企画が具体化していった。当然、カードの制作には二人も参加して、数多くのアイデアを提供している。ダムカードには、お国が作るグッズにありがちな“誰も欲しがらない感”がまるでなく、ファンも納得の完成度に仕上がっているのが不思議だったんだけど、そこにはこんなワケがあったのだ。

そうそう、ダムと言えば「ダムカレー」というものがあるのをご存知か。皿に盛られたごはんがダムの堤体のように形作られてカレーを堰止めている、なんともユニークなスタイルの料理だ。

そのルーツは昭和40年初頭に黒部ダムの名物として作られたものらしいが、そこから派生して湯西川ダムカレーみなかみダムカレーなど、いまではダム名物の定番料理として浸透しつつある。


そして、ダムカードの宮島氏は、ダムカレーの普及にも尽力していた。実は宮島氏、東京は墨田区本所にある老舗割烹三州家の店主なのね。で、趣味が高じて自分の店でも裏メニューとしてダムカレーを出しているのだ。
実はおれ、この『ダムカード大全集』を買うついでに(三州家さんの店頭でも買えるの)、ダムカレーも食べてきたんだよ。

三州家さんのダムカレーは4種類あって、今回いただいたのは一番人気の「アーチ式ダムカレー」だけど、コクがあってとても美味しかった。というか、ごはんの堤体を崩しつつ、カレールーがドドッと漏れるのを鑑賞しながら食事するのは、予想以上に楽しい体験だった。お近くの方はぜひ。

ダムカードの話だか、ダムカレーの話だか、よくわかんなくなってしまったが、いずれにしても“ダムは楽しい”ってことがわかってもらえたらいいな。
(とみさわ昭仁)
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