横浜にある、「野毛山動物園」。入園料無料で楽しめるこの動物園では、ライオンやトラ、キリンといったおなじみの人気動物をはじめ、野生でも数が減りつつある希少な虫類や鳥類など、約100種類の動物たちに会うことができる。
園内に入ると、まず出迎えてくれるのがレッサーパンダ。なんとも愛くるしい仕草を見せてくれる。子供たちやカップルの見物客が絶えない、園内随一の人気者といえよう。しかし、今回会いに来たのは、レッサーパンダではなく、ラクダだ。
野毛山動物園のフタコブラクダ、その名も「ツガル」。推定年齢36歳のツガルは、人間に例えると優に100歳を超えているという。昨年12月の誕生日には“世界最高齢のラクダ”となり、各メディアでも取り上げられた。
「ツガル」という名の通り、生まれは津軽こと青森の観光牧場だった。この牧場が閉鎖することになり、両親のラクダの引き取り先が決まる中で、一頭だけ取り残されてしまったツガル。その姿がテレビで取り上げられたところ、番組をたまたま見た横浜市在住の会社員が不憫に思い、個人の資産で買い取って野毛山動物園に寄贈したのだという。
世界最高齢ということもあってか、ツガルはあまり動かない。この日も、どうやら眠っているらしく、微動だにしないツガルである。飼育員に話を聞いてみると、「ツガルはおだやかでマイペースな性格。年老いる前から、こんな風にのんびり過ごしていることが多かったですね」
とはいえ、来園者に対するサービス精神は非常に旺盛だという。「お年寄りの方やお子様、常連の方などが『ツガルさん、起きてください』と声をかけると、言葉の意味を理解したかのように体を起こすことが何度もありました。いまは昼寝をしていますが、この昼寝の時間帯にも来園者がたくさんいることに気がつくと、眠らずに起きていることもあるんですよ」と飼育員が教えてくれた。マイペースではあるものの、本人なりに来園者を楽しませようと、気をつかっているようだ。
マイペースな性格ということは、自分のペースを乱されることを嫌う性格、ということでもある。これは、人間もラクダも同じだろう。ツガルもそうらしく、飼育員によると「ガイド中に無理矢理エサを食べさせようとすると頑として食べなかったり、ドアの取っ手をヨダレまみれにするといった嫌がらせなどもします。そのあとに、こちらが謝罪の姿勢を取ると、『わかったか』とでもいうような態度で、嫌がらせをやめてくれるんです」とのこと。なんとも、“人間味”にあふれたラクダではないか。
世界最高齢のラクダになったことを、ツガルは自覚していないだろう。いや、自覚していたとしても、マイペースに生きるツガルにとってはあまり関係の無いことかもしれない。結局、取材中一度も動かなかったツガル。それでも、その姿には長い歴史と独特の存在感が感じられ、なんとも満たされた気分になった。
「ツガルには、これからも元気にのんびりと過ごしていってもらいたいです。そしてまた、我々飼育員としては、ツガルを通じて来園者の方々に『命』について考える機会を提供していきたいと思います」と飼育員は話してくれた。
声を掛けたら起きてくれるかも、と思いつつ、昼寝の邪魔をしちゃ悪いなと思い、黙ってツガルのもとを去ろうとしたとき。ピクリ、とツガルの体が動いた。もしかしたら、気をつかって動いてくれたのかもしれない。
(木村吉貴/studio woofoo)
ヘサキリクガメやカグーを飼育しているのは、国内でも野毛山動物園のみ。モルモットやヒヨコといった小動物と自由に触れ合える広場もあり、横浜市民にはもちろんのこと、広く世間から愛されている動物園である。
園内に入ると、まず出迎えてくれるのがレッサーパンダ。なんとも愛くるしい仕草を見せてくれる。子供たちやカップルの見物客が絶えない、園内随一の人気者といえよう。しかし、今回会いに来たのは、レッサーパンダではなく、ラクダだ。
野毛山動物園のフタコブラクダ、その名も「ツガル」。推定年齢36歳のツガルは、人間に例えると優に100歳を超えているという。昨年12月の誕生日には“世界最高齢のラクダ”となり、各メディアでも取り上げられた。
「ツガル」という名の通り、生まれは津軽こと青森の観光牧場だった。この牧場が閉鎖することになり、両親のラクダの引き取り先が決まる中で、一頭だけ取り残されてしまったツガル。その姿がテレビで取り上げられたところ、番組をたまたま見た横浜市在住の会社員が不憫に思い、個人の資産で買い取って野毛山動物園に寄贈したのだという。
世界最高齢ということもあってか、ツガルはあまり動かない。この日も、どうやら眠っているらしく、微動だにしないツガルである。飼育員に話を聞いてみると、「ツガルはおだやかでマイペースな性格。年老いる前から、こんな風にのんびり過ごしていることが多かったですね」
とはいえ、来園者に対するサービス精神は非常に旺盛だという。「お年寄りの方やお子様、常連の方などが『ツガルさん、起きてください』と声をかけると、言葉の意味を理解したかのように体を起こすことが何度もありました。いまは昼寝をしていますが、この昼寝の時間帯にも来園者がたくさんいることに気がつくと、眠らずに起きていることもあるんですよ」と飼育員が教えてくれた。マイペースではあるものの、本人なりに来園者を楽しませようと、気をつかっているようだ。
マイペースな性格ということは、自分のペースを乱されることを嫌う性格、ということでもある。これは、人間もラクダも同じだろう。ツガルもそうらしく、飼育員によると「ガイド中に無理矢理エサを食べさせようとすると頑として食べなかったり、ドアの取っ手をヨダレまみれにするといった嫌がらせなどもします。そのあとに、こちらが謝罪の姿勢を取ると、『わかったか』とでもいうような態度で、嫌がらせをやめてくれるんです」とのこと。なんとも、“人間味”にあふれたラクダではないか。
世界最高齢のラクダになったことを、ツガルは自覚していないだろう。いや、自覚していたとしても、マイペースに生きるツガルにとってはあまり関係の無いことかもしれない。結局、取材中一度も動かなかったツガル。それでも、その姿には長い歴史と独特の存在感が感じられ、なんとも満たされた気分になった。
「ツガルには、これからも元気にのんびりと過ごしていってもらいたいです。そしてまた、我々飼育員としては、ツガルを通じて来園者の方々に『命』について考える機会を提供していきたいと思います」と飼育員は話してくれた。
声を掛けたら起きてくれるかも、と思いつつ、昼寝の邪魔をしちゃ悪いなと思い、黙ってツガルのもとを去ろうとしたとき。ピクリ、とツガルの体が動いた。もしかしたら、気をつかって動いてくれたのかもしれない。
(木村吉貴/studio woofoo)
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