みんな勝間和代さんのことを誤解している!

勝間さんは世間の嫌われ者、と思われている。本書の帯に西原理恵子氏が「勝間がまた嫌われそうな本出している」と書いていて、それは二人が友人であるが故のジョークだと思うけれど、でも、そんなジョークが成立する程度には彼女のことを好かない人がいるのもまた事実。


それは彼女の態度に多くの原因がある。勝間さんは元証券アナリストとして、あるいは経済評論家として、ときには働くシングルマザーとして、様々な役割を持ってマスコミに登場する。日本では、多くの人が相手との協調性を大切にしてものを言う。けれど、勝間さんは直球だ。相手の目を見て、言いたいことをズバズバ言う。中途半端な妥協など許さない。手のひらを前に突き出し、「断る力──!!」と叫ぶ。

日本では、そういう押し出しの強い人は多くの敵を作る。彼女のことを好かない人がいるのも無理はない。でも、それはあくまでも彼女が有名になるために強調してみせている、自分自身の中の一側面でしかない。本当は「オタクっぽ」くて、「落ち着かな」くて、「片付けられな」くて、「気配りができな」くて、「ほよよーーーーん」として、「家にゲーム機ばかり」がある、ぼくらと少しも変わらない人物なのだ。

ここで宣言しておこう。
わたしは勝間さんの大ファンだ! 経済のことなんかこれっぽっちもわからないけど、新刊が出ればいつも買ってる。勝間さんの本って帯に著者自身の写真が載っていて、それがまたいつもいい写真ばっかりなのでスクラップしてるんだよね。

そんな勝間さんの最新刊が、本書『有名人になる」ということ』だ。こりゃまたエラいテーマで攻め込んできたもんだね。これまでに何冊ものビジネス書や自己啓発書を著してきた彼女が最新刊のテーマに“自分自身”を選ぶとは!

しかし、どうしたわけで彼女はこんなテーマを選んだのか。

勝間さんはたしかに有名人だ。でもそれは、本来タレントじゃなかった人がたまたまテレビに出たら視聴者のウケがよく、次第に出番を増やしていって、いつの間にか有名人の仲間入りをしていたのだと思っていた。というか、皆さんそう思っていたでしょ?
ところが、本書を読んでみると、勝間さんは自分が有名人になったのは「ビジネス」として取り組んだ結果だと、繰り返し述べている。

2007年に証券アナリストから投資顧問業に転身した勝間さんは、自身の会社「監査と分析」(いい名前!)を設立する。ところが、その後にやって来た「リーマンショック」の影響で大切な顧客を失い、会社を維持することが困難になってしまう。その苦境を脱するために思いついたのが「勝間和代有名人化プロジェクト」だ。自らが有名人になることで「社会的責任についての発言を行なえる立場」を獲得し、その活動を通じて「社員とその家族が困らない程度の収入を」得るようにすること。
つまり、あくまでもビジネスの一環として有名人になった」と言っているわけ。

だが、本当にそれだけだろうか。
勝間さんは本当にビジネスのためだけが理由で、有名になりたかったのだろうか。

勝間さんは、本書の第2章を丸々費やして「有名人になる方法」を紹介している。
「その方法論は、ひとことで言えば、自分をある商品ととらえて、その特徴を把握し、どのセグメントのどの顧客であれば受け入れられるのか、そして、どのチャネルを使って、どのようにアプローチすれば売れるのか、その仮説をつくり、PDCA(Plan 計画→Do 実行→Check 検証→Action 改善)サイクルを回して実行する、その繰り返しです。つまり、通常のビジネスと同じです」
なるほど、ビジネスなのだな、と一瞬はそう思わされそうになるが、しかし、わたしにはこれは壮大な照れ隠しにも見えてしまうのだ。

勝間さんは……ビジネスとか関係なしに有名になりたかったんじゃないかな。人間は、多かれ少なかれ心の奥に有名人願望を秘めていると思うんだ。ビジネスとして有名人プロジェクトに取り組んでいただけでは、ここまで短期間に有名人にはなれなかっただろう。有名になりたい、大勢の人に認められたい、キャズムを越えたい。そんな勝間さんの本気が、わたしたちを魅了したのだ。

だが、有名になることで生じるデメリットもある。
それはたとえば衆人環境の中で生きることだったり、見知らぬ人達からの批判や攻撃に晒されることだったりだ。普通の神経の持ち主がそれに耐えることは難しい。いくら気丈な勝間さんであっても、心が痛むこともあるという。なりたくてなった有名人だけれど、やはり心ない接し方をされれば、少しは傷つく。当たり前のことだ。

それでも勝間さんは前に突き進む。本書の中で、彼女はこんなことを書いている。
「わたしのように鼻と顎に特徴があると、サングラスをかけても、どうせわかってしまいます」
と。さらに、見ず知らずの人から指摘される身体的特徴のひとつに、堂々と「鼻の穴」を挙げる。
もちろん自分で言ったのではなく、他人から悪口として言われたことではあるが、それを冷静に受け止めて、客観的事実として自著に書く。この冷静さにわたしは感動を禁じ得ない。証券アナリストは自分の鼻の穴リストでもあったのだ。


勝間さんはいつも一生懸命だ。テレビに頻繁に出ていた頃(まさに、彼女の言うところの有名人プロジェクトの真っ最中だった頃)、画面の中で饒舌に語る勝間さんは、まるで委員長のようだった。社会のことなど何もわからないぼくたちを、正しい場所へ導いてくれる委員長だ。おまけに勝間さんは、大型バイクに颯爽とまたがってハイウェイをぶっ飛ばしたりもする。まるで早川光と委員長の二役を兼ねた“ひとり750ライダー”みたいな存在だ。惚れるなと言う方が無理だ。

ぼくたちは勝間和代を過去の人にしてはいけない。ずーっと有名人でいてほしい。
勝間さんの有名人化プロジェクトは、2008年5月の「情熱大陸」(TBS系)出演から、2009年の「紅白歌合戦」(NHK)の審査員を経て、2010年3月の「中居正広の金曜日のスマたちへ」(TBS系)での特集で第1フェーズを終えた。しかし、約1年の休止期間を経て、今年からは第2フェーズに挑んでいるという。
ああ、やっぱり勝間さんは勝間さんだ。やる気満々じゃないか。
たとえ世間が忘れても、少なくともわたしだけはずーっと応援し続けるよ!
(とみさわ昭仁)
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