ソーシャルゲーム「戦国コレクション」がアニメ化すると聞いた時は、全然興味持ってなかったのです。
ぼくもプレイしたことありますが、戦国武将を中心とした歴史上の人物が、男性バージョンと女性バージョン(いわゆる女体化)になっているカードゲーム。

これのアニメ化って面白いの?とスルーしていたんですが、箱を開けてみてびっくり。
ゲームと全然関係ない、むしろスタッフが本気で遊んでいるとんでもないアニメになってるじゃないか。
このアニメスタッフの映画愛、ちょっとおかしいよ!

どこがどうなっているアニメなのかを、順を追って説明します。
まずゲームにあった男性キャラを全カット。女体化された武将キャラのみしか出ません。
だから「おだのぶながちゃん」とかになるわけです。

まあこの時点で普通なら「おかしい」んですけどね。でも、違う違う、そこだけがすごいんじゃない。

もともとのゲームにはほとんどストーリーがない。
ではどうするかといって取られた手段が「オムニバス形式」でした。
毎回メインになるキャラ(例・織田信長(女)など)が設定されていて、そのキャラを中心とした物語が展開する構成になっています。
完全に別の話なので、特にキャラ同士の接点もないんです。
たまにのぶながちゃんがメインヒロインとして他の話に登場したりする程度。
加えて、戦国時代から現代にやってきた武将(女)が、それぞれの地域で暮らしている、という設定に変換しました。
現代社会側はみんな慣れており、戦国武将(女)を居候させたりしています。

ここからが特殊なのですが、それぞれの話は、キャラを掘り下げるとかじゃないんですよ。
毎話ごとに、必ず映画をリスペクトした映像を作り、実験的なアニメを繰り広げているんです。
物語やシチュエーションもそうですが、映像そのものが全く別物になっている回も多いからびっくり。

あくまでもぼくの主観+ファンの間でかわされた意見から、今まで放映された作品のリスペクト元を並べてみます。

一話・ローマの休日
おなじみベスパで織田信長ちゃんと観光するシーンがあります。

二話・スタア誕生
徳川家康(女)が有名アイドルに憧れて、努力してアイドルになっていくお話。
一方、有名アイドルは頂点に立った後は落ちぶれる、という芸能界のリアルが元映画同様シビアに描かれています。
脚本はアニメ「アイドルマスター」のシリーズ構成をやっている待田堂子というこだわりっぷり。

三話・ベルリン・天使の詩
上杉謙信と直江兼続(女)の百合物語になっています。

直江兼続は世界が灰色にしか見えず、羽根が生えて天使のように飛ぶことが出来ます。
ところどころに映画で見たアイテムが置いてあるのがポイント。

四話・女囚701/さそり
伊達政宗(女)が裏切りを受け投獄。
獄中では、穴を掘っては埋めるのを繰り返す「閻魔おとし」を再現。
女囚同士の争い、ガラスの破片で傷つける行為、脱獄後の復讐などもアレンジして組み込んでいます。
配色もダークで、最もバイオレンスな一話。


五話・ボウリング・フォー・コロンバイン
剣術師範塚原卜伝(女)をドキュメンタリー風に撮影しています。
映画が「銃社会のノンフィクション」だったのを、「帯刀している武将の危険性」に置き換え、ドキュメンタリーカメラのブレなども再現。サウスパークなどのようなアメリカンな表現も多いです。
元映画とは逆に、マスコミ批判ネタを盛り込んだ、なんともヘヴィなテーマをさらっと描いたエンタテイメント。
マイケル・ムーアのパロディキャラ、マイク・モースを演じるのは、ムーア本人の日本語版吹き替えをやっている江原正士。

六話・バック・トゥ・ザ・フューチャー
平賀源内(女)を主人公に、少年との交流を描きながらタイムマシン制作する様子が描かれています。


七話・バグダット・カフェ
松尾芭蕉(女)が、とある落ちぶれたカフェにやってきて、大掃除するところから映画を完全リスペクト。
ちょっと歪んだおかしな連中とやりとりしながらカフェは再興、その後強制送還から帰還するところまでをアレンジして再現。
映画独特の色も再現されています。しかも芭蕉のセリフはすべて575調というこだわりっぷり。

八話・アリス(ヤン・シュワンクマイエル版)
お米が大好きな豊臣秀吉(女)がおにぎりを追って穴に落ち、不思議の国のアリスのような世界に飛び込むのですが、世界は極めて不気味で、他の登場キャラの会話の狂気色がえらく濃い話。
またデヴィット・リンチの映像技法やテレビ作品「Rabbits」のパロディを交えており、シュールさはダントツ。
哲学的なトークの合間に米と人身御供の話をさらりと入れ込みつつ、極彩色の世界を描いています。
これ何度見ても理解出来ないんですが。

九話・火山高
北条早雲(女)が学校にいって番長と戦う話。
描き文字が飛び出したり、物体を能力で止めたりする映像をリスペクトしながらアクションに盛り込んでいます。

有名な作品もいくつかありますが……ちょっとこれ全部見たことある人、相当映画通なんじゃないの??
しかもそのマニアックさをを使って笑わせるんじゃなくて、映像の技法、アニメの楽しさに落とし込んでいるから面白い。
ギャグじゃないんですよ。結構シビアな話も多いんです。
元ネタの映画のもっている「空気」(色・人物関係・世界観)の中にキャラを投げ込んじゃってるんです。
でも映画の単なるパロじゃない。
史実の戦国武将のネタをうまいこと交えながら、全く新しい話を作っちゃってるんです。

個人的にすごいなあと感じたのは、二話。一話がのんびりした話だっただけに、いきなりシビアなスターの成功と没落を描いた「スタア誕生」のネタを詰め込み、緊迫感あふれる映像にしたのは、美少女キャラとのギャップでインパクト絶大でした。
そして五話。突撃アポ無しインタビューの再現だから、まあ画面揺れる揺れる。主人公目線じゃなく収録というのにこだわった映像が非常にユニークなんですが、よく見ると強烈すぎるテーマが詰め込まれています。美少女だから笑って許せるけども。
ネットで話題になったのは八話。こればっかりは何度見てもわからない。アリスはアリスなんですが、禅問答みたいな押井守的会話、ヤン・シュワンクマイエルのクレイアニメのような不気味な登場人物、見ていると酔いそうなデビット・リンチ的映像を組み合わせながら、それでも物語にしているんだから驚きます。これは一見の価値本当にアリ。

映画の雰囲気再現だけでなく、「戦国コレクション映像」ともいえる独特の構図が頻繁に用いられているのも特徴的です。
遠景からキャラの会話を固定カメラで眺めるようなシーンがとても多く、そこに武将の紋をデザイン的に織り交ぜるんですよ。キャラのデザインはフワフワしているので、この妙に落ち着いた映像とのギャップで、奇妙な「間」が生まれています。
実はこの映像を作っているのは、ブレインズ・ベースというアニメーション会社。「輪るピングドラム」の制作会社です。
監督は、「機動戦艦ナデシコ」の後藤圭二。
なるほど、それらで培われたノウハウを、最高級の「やりたい放題」に活かしてるのね。

相当楽しんで作っているんだろうなーというのを強く感じます。
しかも、全く映画知らなくても、史実の人物を知らなくても、アニメとしての面白さもしっかり出来ているからすごいんです。
「美少女萌えアニメ」とか「ソーシャルゲーム原作のアニメ」とかという概念は一回全部捨てちゃってください。
戦国武将が女の子だなんて、というのも、気にしないでOK。
それどころじゃないですから、このアニメ。

戦国コレクション Vol.01

(たまごまご)