4年に一度のオリンピック、皆さん寝不足は大丈夫でしょうか?
開会式は各方面で大絶賛。柔道、水泳、ウェイトリフティングとメダルも初日から量産体制で、早くも盛り上がりを見せています……りょうさん体制、両さんたいせい、両さん……あー、オリンピックですよ! 『こち亀』ですよ。

あの男を忘れちゃいないでしょうか。4年に一度だけの五輪男・日暮熟睡男が4年ぶりに『こちら葛飾区亀有公園前派出所』に戻ってきました。本日発売、週刊少年ジャンプ35号に堂々の登場です。
今回の『こち亀』、ハッキリ言って凄いです。詳細はもちろん伏せますが、日暮が初登場してから32年、9回目のオリンピックにして、遂に五輪開催国に乗り込みます。つまり、舞台はロンドンです。
さあ、急いでコンビニでジャンプをチェックです。

といっても、日暮熟睡男を知らない方もいらっしゃるかもしれません。いや、名前は聞いたことがあっても、どんな人物なのかご存知ない方もいるでしょう。そこで今回は、これまでの日暮Historyを、オリンピックの歴史とともに振り返っていきましょう。

【1980年:モスクワ五輪】(21巻収録「うらしまポリス!?」
時代は東西冷戦下。前年に起きたソ連のアフガニスタン侵攻の影響を受け、西側諸国の集団ボイコットという大騒動が起きたのがモスクワ五輪です。
日本もアメリカの政治的圧力に屈してボイコットとなり、当時世界最強で金メダル間違いなしと言われた瀬古利彦選手らが涙したことでも有名です。
この年、連載4周年を迎えた『こち亀』が、オリンピックと4周年をかけて登場させたキャラクターが日暮熟睡男なのです。
さて、そもそも、日暮がどういうキャラクターかも不明な方には、大原部長が中川に語った次の台詞がわかりやすいでしょう。

「日暮というやつはとにかく物ぐさな男でな! 当時から休んでばかりいてひと月に 3日くらいしか出勤してこない
それがだんだんエスカレートして 今や 4年に一度しかこなくなってしまった 別名 オリンピック男とよばれている」

4年に一度しか登場しない警察官がなぜクビにならないのか、という素朴な疑問に対しては、両津巡査長が答えてくれています。

「ところがあいつは人の数百倍もカンがいいんだ
来るたびに難事件をかたづけてしまう不思議な力がある
200時間くらいは平気でねむる男だ 体を動かさないからそんな能力が身についなのかもしれん」

こち亀ファン、日暮ファンとしては是非とも押さえておきたい初登場回です。


【1984年:ロサンゼルス五輪】(41巻収録「五輪男・日暮再登場」
体操・森末慎二が金メダル獲得で人気を博し、山下泰裕が「肉離れくらいで、いままでの努力を無にしてたまるか」という名言とともに涙の金メダルを獲得したロス五輪の84年に、日暮は2回目の登場を果たします。


目覚めた日暮は4年間の歳月の流れの早さを、以下の言葉で嘆きます
「せっかく今 ブームの漫才をみようと思ったのに……
ああ パンチガールの松田聖子 あの3人娘は好きだな! 聖子 順子 裕子でしょう! ラジオでいつも聞いてるよ」

漫才ブームが起きたのが1980~82年、ちなみにパンチガールとはニッポン放送の伝説の深夜番組「ザ・パンチ・パンチ・パンチ」に出演していた女性パーソナリティらの総称になります。


【1986年】(49巻収録「オリンピックにゃまだ早い」
日暮、3回目の登場は、なんと五輪イヤーではありません。借金の取り立てに来た男が日暮を起こしてしまうのですが、五輪年以外に目覚めるとキレる、寝起きの悪い日暮を見ることができるのがこの回です。


【1988年:ソウル五輪】(62巻収録「五輪男・日暮巡査の秘密!」
先日タイム誌が「史上最悪の開幕式」の1位に挙げ、ベン・ジョンソンがドーピングで失格となり、鈴木大地が一世を風靡した「バサロ泳法」で奇跡の金メダルを成し遂げたソウル大会の88年、日暮4回目の登場となります。

この話では、日暮が寝るための「儀式」も紹介。天丼10人前、うな丼10人前、焼肉20人前、すし10人前を一気に平らげ、ガリガリだった日暮が一気に丸々と太って行きます。
実は日暮、元々脂肪が多く食いだめが可能な体質。一度思いっきり食べると一週間くらい寝てられるようになり、それが今では4年分食べられる様になった、という設定が明らかにされました。


【1992年:バルセロナ五輪】(81巻収録「忘れて!日暮くん…」
谷口浩美の「こけちゃいました」、岩崎恭子の「今まで行きてきた中で、一番幸せです」とい名言が生まれ、NBAドリームチームでバスケ人気が沸き起こったバルセロナ五輪。この年の日暮の浦島トークは歴代随一の面白さです。

まず、100円でジュースを飲もうとして出てこないのに腹を立てて念力で自動販売機を壊します。さらに、「消費税」を請求した店員をウソつき呼ばわりし、両津が必死になだめるのです。
(※3%の消費税が導入されたのが1989年)
日暮の浦島っぷりを、両津との掛け合いも含め一気に見て行きましょう。

日暮「そんなバカな! いつ竹下首相が決めたんです」
両津「竹下じゃない! 現在は宮沢だ! 竹下首相 宇野首相 海部首相 宮沢首相 お前が寝てる4年間でこれだけ変わった!」
日暮「宇野首相ってだれです? ねえ! 宇野首相ってだれ?」
日暮「宮沢りえがヌードになったって本当? 信じられないな まだ14歳だよ」
両津「寝てる間に大変な事が起きたんだぞ日暮!!! 昭和が終わってしまったんだ」
両津「ソ連もなくなってしまったんだぞ! クーデターも起きて大変な騒ぎだったんだぞ」
両津「ドイツも統一されてしまったんだぞ!!! こわされたドイツのカベが世界中で売られてな!! 日本でも売ってたぞ!!!」
両津「去年 戦争が起きたんだぞ!!! 」

なんという激動の4年間でしょう。ちなみに宮沢りえのヌード『サンタフェ』が発売されたのはこの前年の1991年、宮沢りえ18歳のときです。


【1996年:アトランタ五輪】(100巻収録「日暮巡査の潜在能力!?」
有森裕子が「自分で自分をほめたいと思います」という名言と銅メタルを残し、ゾノ・ヒデのラ王コンビ、もとい男子U23サッカー代表がブラジルを撃破するという「マイアミの奇跡」を果たしたアトランタ五輪の96年、日暮6度目の目覚めです。
しかし、この辺りから日暮が目覚める過程に重点が置かれるようになります。4年前、ゴミと勘違いされて捨てられた日暮を探して、かつてゴミ処分場があった「東京臨海副都心」一帯をさまよう両津一行。


日暮「ここはどこなの?」
両津「臨海副都心だよ! お前の知らない場所だ」
日暮「都市博が始まっているんだよね 見たいなァ どこの会場でやっているんだっけ 今!?」
両津「ここでやる予定だったんだよ! 都知事の“青島幸男”が中止にしたんだよ!」
日暮「えっ!? ちょっと待って! 寝起きで耳の調子が悪くて! もう一度 都知事だれ?」
両津「青島幸男だよ」
日暮「またぁ! からかわないでよ!」「えっ 大阪府知事が横山ノックだって!!」

この他にも、携帯電話に驚く日暮、そしてサッカーのプロ化、パソコンブーム、『こち亀』のアニメ化などにも触れつつ、4年間の月日の流れを確認できます。


【1996年 ※特別読み切りに登場】(『こちら葛飾区亀有公園前派出所 読者が選ぶ傑作選』収録「日暮2号!? 登場」

『こち亀』1000話記念として読者から募集して採用されたストーリーで、日暮には双子の弟「日暮起男」がいた、という設定。兄・日暮とは真反対の「4年に1度しか寝ない」というキャラクターとともに登場を果たします。ただし、これはこの回だけの特別設定でオフシャル扱いではない、と作者である秋本治先生自身も語っています。


【2000年:シドニー五輪】(123巻収録「4年ぶりにあいつが登場する!!」
高橋尚子が「すごく楽しい42キロでした」という名言とともに金メダルと国民栄誉賞を受賞し、水泳・田島寧子が「めっちゃ悔しい」という名言とともに銀メダルを獲得し、直後に現役を引退して芸能界デビューを果たす(そして後に芸能界も引退)、というエピソードも懐かしい2000年のシドニー大会。
この回では4年間で新宿歌舞伎町がいかに変貌を遂げるか、について描かれています。日暮が眠りについたカプセル会社がその後、コンビニ→レンタルビデオ店→キャバクラ→学習塾→SMクラブ→弁護士事務所→100円ショップ→フランス料理店……と、4年間で10軒以上変貌。そのため、日暮がどこでどう眠っているのかわからなくなる、というお話です。

このエピソードがちょっと考えさせるのは、この翌年・2001年に、「歌舞伎町ビル火災」という、テナントが常に移り変わる雑居ビルであるが故の事故が実際に起きた、ということ。時代の移り変わりを描き続ける『こち亀』だからこその、一種の予言、とも言えるでしょう。


【2004年:アテネ五輪】(144巻収録「4年に一度の日暮祭」
谷亮子が「田村で金、谷でも金」を有言実行し、北島康介が「チョー気持ちいい」と初の金メダルを獲得し、「とくダネ」小倉キャスターの予想通り16個の金メダルが日本にもたらされた2004年。この年目覚めた日暮は、寝てる間に超能力がひとつ増え、テレポーテーションができるようになります。ただし、5M以内でしか移動ができない、という地味な設定。
当時盛り上がりを見せていた「世界中を回る聖火リレー」にまつわるエピソードが描かれています。


【2008年:北京五輪】(165巻収録「日暮登場」
北島康介が「うれしい。なんも言えねえ」という名言とともにまたもや金メダルを獲得し、ウサイン・ボルトが驚異的な世界新記録をたたき出した、まだ記憶にも新しい4年前、なんと警視庁から解雇されて再就職先を探す日暮、というお話です。女性(美女)の前だけはまともに会話ができる、ということでホストに挑戦する日暮熟睡男、改め NERUOちゃん。というエピソードが描かれます。
この回の日暮は正直いい所なしです。なぜか超能力もほとんど使えなくなっており、事件解決もしません。
終盤で透視とテレポーテションが復活したものの予知夢はほぼ復活せず、給料も4年分はいらない、ということでクビはなんとか免れましたが、日暮ファンとしては正直不満が残る回でした。


さあ、そして、2012年ロンドン大会と日暮です。正直、前回ちょっとがっかりしたのを忘れるほど、今回は『こち亀』らしいドタバタ劇が満載。4年に一度の縁起物として、ぜひ是非、今週のジャンプは押さえておきましょう。
「4年に一度しか登場しない日暮巡査を今回見た君はラッキーです」
と、作者自身が81巻で語ってるくらいですから。
(オグマナオト)