「つなぎ飼いされているイヌには、毎日少なくとも1時間は自由な運動をさせなければならない」(『犬の屋外飼育に関する命令』)という動物保護規定がドイツでは存在する。
他方、日本の動物愛護管理法では「その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努める」(7条)、「みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる等の虐待を行った者は、50万円以下の罰金に処する」(44条)とある。では、つなぎっぱなしはこの「等の虐待」にあたるのか。
「それは飼い主のネグレクト(怠慢)であり、動物虐待につながることだと思います」(日本動物愛護協会)。ネグレクトとは、
・健康管理をしないで放置
・病気を放置
・世話をしないで放置
(環境省資料)
などを言う。
散歩を一切させず係留し続けるとイヌに極度のストレスがかかり、縄張り意識が極端に高まり、結果として飼い主にまで噛み付くこともあるという。
では、動物虐待として44条の罰則規定の適用は可能なのか。環境省の動物愛護管理室に問い合わせたところ、「動物虐待かどうかは各自治体の判断に任せている」とのこと。そこで、東京都動物愛護相談センターに聞いてみた。
「つなぎっぱなしだけでは難しいです。
「住民から通報などで好ましくない飼養環境の疑いがある場合は、都の動物愛護担当職員がその現場を調査し、問題があれば注意します。しかし、今までつなぎっぱなしだけで動物虐待として立件されたケースは少なくとも東京都ではないと思います。やはり衰弱、死亡といった事例でないと……」
環境省がまとめた「平成21年度動物の遺棄・虐待事例等調査報告書」で見た限りでも、給餌、給水などを怠って衰弱し、死亡した以外でネグレクトとして認められたケースはない。
「つなぎっぱなし=動物虐待の可能性大」だと思われるが、現実には法律、条例の効力は及んでいない。結局、現状では飼い主のモラル、周辺住民の良心に期待するしかないわけだ。
最後は、以前コネタで紹介したドイツ哲学者、ショーペンハウアーのイヌについての一文で締めくくりたい。
「鎖につないで一匹の大きな犬を飼っていた貴族があるとき、庭をよぎりながらふと思いついて犬を愛撫しようとした。ところがその犬はすぐさま貴族の腕に咬みついて上から下まで腕の肉をちぎり取ったというのだ。(中略)犬にしてみればこう言いたかったのだろう。“お前は俺の主人ではない、お前は俺の短い生涯を地獄に変えるところの悪魔だ”」
(羽石竜示)
○文献
・Verordnung ueber das Halten von Hunden im Freien
・「自殺について(他4篇)」(ショーペンハウアー著、斎藤信治訳)