色々言いたいことあるけどさあ。
表紙わけわかんないですよね。

帯がついているから、買うときどういうマンガかわかって買いましたが、正直これ不安になりますよ。
鉛筆殴り書きぐちゃぐちゃの表紙。イラストとは到底呼べない。
ですが、実際のマンガの絵が自分の肌にあうかどうかはもうあとでいい。
この不安定感に惹かれたら、買っていい。
そういう作品。

『報復学園』は「いじめ」をテーマに復讐を描いたマンガです。
いじめられっこの少年、安彦はある日突然誰かに拉致されます。
拉致された先は武器が数多くそろった謎の空間。そこにいるのは同じようないじめられっこ達。
「さぁ武器を取れ勇者たちよ!! 日が暮れるまでに自分の獲物を殺せ!! それができない愚かな勇者は、殺す」
よくわからないアナウンスを聞いて、いじめられっこ達は刃物や鈍器など、殺傷できる武器を手にします。
わけもわからず歩いて行く彼らの目の前に現れたのは、自分をいじめていた奴ら。
ただし自分たちと違って手枷をされています。
そして、なぜ彼らが集められたのかがここで明らかになります。
アナウンスはこう言います。
「さぁ勇者達よ、決戦の時だ!! あの悪しき者達を……いや……いじめっこ共を殺ってしまえ!

殺したいほど憎い人、と表現上で言う相手って、心当たりある人もいると思います。
やっぱりそこは人間なんです、合わない人もいるし、迷惑をかけられた人もいるし、許せない人もいる。
でも「殺したい」と心で思っても、じゃあはい刀、バット、包丁と渡されて「殺していいよ」と言われても、殺せるわけ無いんですよ。
それは犯罪だからというのもありますが、殺すかどうかの一線がものすごく大きいからです。
人間、人を殺すようになんてできていない。そこまでリスクを負いたくもないし、なにより人間には良心がある。

しかしこの作品ゴリゴリ追い詰めてきます。
主人公安彦がいじめられている描写が、もう本当に凄惨。
いじめっこのゲームのためにお腹を殴られ続ける。

罰ゲームと称してトイレに顔を突っ込まれる。
お金は奪われ、母親が作ってくれたお弁当は食べられ、周囲には無視される。
親に言ったら心配をかけてしまうから言えない。万引きをさせられているから警察に言えない。
いつになったら終わるんだ
彼が身につけたのは、辛い時でもへらへら笑っていることでした。

いじめっこは殺していい。殺さなければ自分たちが殺される。
相手は手枷をしているから反撃ができない。武器をもっている分圧倒的有利。
出口はどこにもない。狩るものと狩られる者だ。
安彦のみならず、全員が困惑します。

時がたって、他のいじめられっこの緊張の糸がプツンと切れ、狩りは始まりました。
学校中に響き渡る、いじめっこの阿鼻叫喚の声。

この作品にはもう一人主要人物として、水島という少女が出てきます。
かつて安彦が好きだった女の子。中学校に入ってから別々になり、彼女が今どういう生活を送っているか知りません。
小学校時代は水島は明るく元気な子でしたが、中学に入ってからは陰湿ないじめにあい続け、心を歪めてしまいます。
教師に言っても取りあってくれない。味方は誰一人いない。
自殺してこの女に責任負わしてやろうか? どう殺してやろうか?
いや、でもそれをやって人生棒にふるのも、親を悲しませるのもいやだ。

この「そんなことのために自分の人生を台無しにしたくない」という感覚と、「もういやだ、いつどうしたら終わるんだ」という葛藤。
それを、この異常な空間は一発で取り去ります。
初めて持つ、本物の殺傷武器。
殺さないと殺される=殺るしかない。この空間ではいじめっこへの報復は善であり、罪に問われない。
『バトルロワイヤル』的な設定と見えて、根本が違います。いじめられっこ側が殺すためのものが整いすぎている。

この謎は読んでいけばわかります。
それよりも、安彦は、水島は、じゃあいじめっこを殺すのか?
他のいじめられっこ達は、自分をいじめていた奴らに報復します。
自分達も殺すべきなのか、いやこの場では殺すべきなんだけどそれでいいのか。

いじめを描く場合、その苦しさ、辛さからどう解放されるかが重要なテーマになります。
この作品もその根っこの部分は同じですが、シチュエーションが特異すぎる。
いじめっこに報復をする少年少女たちを幸せと見るか、それとも最大の不幸と見るか。
「問題作」という言葉がぴったりはまる作品でもあるのですが、実際は昔からある「殺したいほど憎い・ツライ」が形になったら、というIFを描いた作品。
もし心に一度でもそういう感情がわいたことがあるなら、読んでいて賛否ともになんらかの感情が湧いてくる作品になっています。

決してこの作品の結論が「正解」でも「間違い」でもない。
いじめ問題と、そこから生まれる憎しみを、オブラートに包まずに真っ向から描いているのがすごいんだ。


秋山弘行 『報復学園』

(たまごまご)
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