――そもそも、伊勢うどんって、どんなうどんですか?
「極端に太くて柔らかい麺に、少量のタレからめて食べるうどんです。麺の太さは、お店によっても若干異なりますが、讃岐うどんの2~3倍、稲庭うどんの10倍ぐらい。タレは『たまり醤油』をベースに、カツオやサバでとった濃いだし汁などをブレンドしたもので、見た目は辛そうですが、むしろ甘口といっても過言ではありません。伊勢うどんは元々、伊勢神宮のおひざ元の伊勢地方で350~400年前に生まれたと言われています。諸説ありますが、麺が柔らかいのは、伊勢参りに訪れた人が食べてもお腹に優しいからとも言われていますね」
実は「伊勢うどん」は、伊勢地方で極地的に食べられていたうどんで、石原さんの出身地の松阪市と伊勢市はお隣り同士なのに、松阪では食べる機会があまりなかったそうだ。
石原さん「伊勢の人たちも『自分たちが食べているうどんは、よそのうどんと違うらしい』と気づいてなかったそうで、『伊勢うどん』という呼び方が広まり始めたのは昭和40年代なんです。僕も、伊勢神宮にお参りに行った時に食べるという感覚でしたね。ちなみに、伊勢では『うどん』といえば伊勢うどんのことを指していて、全国的に食べられている一般的なうどんはつゆの色が薄いこともあって『うすうどん』と呼ばれています」
●「嵐にしやがれ」でも紹介。新宿ゴールデン街「ぺんぎん村」の伊勢うどん
そんな伊勢うどんを、東京で食べられる店が15~16店舗ほどあるという。今回は石原さんのおすすめのお店の中から、新宿ゴールデン街にある「ぺんぎん村」にお邪魔した。
早速、うどんとタレと生卵をよ~くかきまぜて食べてみたところ…
●タレは真っ黒なのに、見かけと違ってほんのり甘くて、生卵とよく合う。
●麺が太くて非常に柔らかく、口当たりがまろやか。
●少しすすっただけで、ズルズルーっと口の中に美味しさが入っていく。
「うまい!」
思わず、お店を教えてくれた石原さんと、伊勢うどんを作ってくれた前田さんと、握手をしたくなるようなうまさだ。確かに、麺自体は食べたことがないくらい柔らかいのだが、ほんのり甘いタレがからみつくので、すすっているうちにクセになる。
――コシがないのに美味しいという理由がよく分かりますね!
「伊勢うどんを食べて、その美味しさに気づいた人が増えてきて、最近は、うどんに対する許容範囲が広がってきましたね。麺はコシがあってもなくても美味しいので、『みんなちがって、みんないい』っていう感じです(笑)」
今や、著名人にも人気が広がっている伊勢うどん。レスリングの吉田沙保里選手や氣志團の綾小路翔さんも伊勢うどん好きだそうだ。石原さんは、故郷に恩返しをするという思いで、伊勢うどんを応援していて「伊勢うどん友の会」を立ち上げて活動中。ブログやフェイスブックを通じて“会員”が急増している。
さらに、石原さんによると、伊勢うどんは我々に大事なことを教えてくれるという。
「例えば、うどんといえばコシのある麺だと思っている人が、伊勢うどんの柔らかい麺を食べて、『柔らかい麺も美味しいじゃないか!』と発見することで、自分の固定観念がいかに狭いものであったかということに気づくんです。同時に、『コシのあるうどんも、コシのないうどんも美味しくて、世の中に正解というものはないんだ』ということにも気づきます。『こんな生き方をしなきゃいけないんだ』とか、『男(女)だったらこうあるべきだ』などという考えに、こだわる必要はないということを、伊勢うどんが教えてくれるんです!」
結局、石原さんは2時間に渡って伊勢うどんについて語ってくれた。まるで、できたてでアツアツのうどんのように、ここまで人をアツく語らせてしまう伊勢うどん、恐るべし。
ちょうど、2013年は20年に一度の伊勢神宮の遷宮の年。伊勢に訪れて伊勢うどんを食べる人も増えそうだ。今年、一気にブレイクするかもしれない伊勢うどん。なかなか伊勢まで行かれないという方は、お取り寄せでも食べることができるので、流行を先取りする気分で食してみては?(やきそばかおる)
「伊勢うどん友の会」サイト
http://iseudontk.exblog.jp/
「伊勢うどん友の会」フェイスブック
http://www.facebook.com/iseudontomonokai