ゲーム研究者に「おそろしく退屈なゲーム」と評されたPCゲームがある。そのゲームの名前はズバリ「風呂」。
作った人は斎藤公輔さん。ん?この名前ってどこかで聞いたことがあるような…。そう、以前、エキサイトニュースBitコネタで紹介した、アマゾンの箱を全種類めざして集めている“あの”斎藤さんである。早速、筆者は再び大阪の斎藤さんの元へ。果たして「おそろしく退屈なゲーム」とはどんなゲームなのか。お話を伺った。


――まさか、「風呂」のゲームを作ったのが斎藤さんだったとは!そもそも「風呂」って、どういうゲームなんですか?
「一言で言ってしまえば、お風呂のお湯を沸かすシミュレーションゲームです」

――お湯を沸かすゲーム!?
「まずは浴槽に水を入れるんですけど、30分くらい待たないといけないんです。タイミングを外したりすると水が溢れるので、常に様子をみておかないといけません。それから風呂を沸かしはじめまして、20分ほど経ったところで風呂を沸かすのを止めます」

字面にして読むと、フツーに風呂を沸かす時の動作の手順ではないか。
「浴槽から水が溢れたり、風呂を沸かしすぎて熱湯にしてしまったらゲームオーバーです。ゲーム中では“風呂の達人”が『そろそろ止めてもいいころじゃないでしょうか』といった具合でアドバイスしてくれます」

――“風呂の達人”!?
「お湯を沸かし終わると、『風呂の達人』が湯加減に応じて、『これはいいお湯ですね』とか『ぬるい!』とか、『こんなものに入れるか!』と怒ったりします!」

――さすが達人!スパルタですね(笑)。おそらくこの質問は、斎藤さんのまわりの皆さんからも何十回も聞かれた質問だとは思いますが、それを承知で敢えてお聞きします。
…なぜこのゲームを作ろうと?
「あんまり覚えてないんですけど…(笑)」

――うんうん。『な~んとなく作った感じ』がプンプン漂ってますよ。
「とりあえず、僕が風呂好きだということが一つと、今は自動でお風呂を沸かしてくれるけど、昔は自分でお湯と水を調整しながら浴槽にお湯をためてたじゃないですか。うまく調整しないと、水になったり、熱湯になったりするのって、まさにゲームだと思ったんですよ」

――それにしても、お湯を沸かすのにPCの前に50分も張り付いてないといけないって…。
「これは、『たけしの挑戦状』をヒントにしています。何もせずに1時間待つだけ…っていうのがありましたけど、ゲームの中の時間と現実の時間が繋がってるのに感動しまして。
風呂も沸かしている間は何もしないから、こういう日常もゲームになるんじゃないかと…」

おお!
なんだか深い話ではないか!(←そうなのか?)

●衝撃!自分が偶然読んだ本に、「風呂」のことが!

しかし!
しかしである。

ゲームを作ってから12年が経った昨年(2012年)、意外な形で「風呂」が取り上げられることとなる。国際大学GLOCOM客員研究員で、ゲーム研究者の井上明人さんにご自身の著書「ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える」(NHK出版)で「おそろしく退屈なゲーム」として紹介されてしまったのだ。

――そもそも、「風呂」のゲームを井上さんが紹介していることは何で知りました?
「井上さんがTwitterでつぶやかれてて、興味があったんで著書を買って読んだんです。読みすすめていく間に『いつでもゲームの結果を確認できるというのは、ゲームの面白さにとって重要』という旨の内容が書いてあって、その話の途中でいきなり『風呂』の話が出てきたんです!」

著書によると、井上さんはこのゲームについて「形式にはゲームとしての外見を備えているが、実際にプレイしてみるまでもなく、実につまらないゲームになっている」と酷評。放置してしまうと水が溢れたり、お湯が熱くなりすぎてゲームオーバーになってしまうことについて、「けっこう面倒くさい」とも。


そう!
ここまで読んでお分かりの通り、井上さんは「風呂」をプレイしてくださったのである!
しかも、著書によると「実につまらない」と思いながらも、クリアしたそうだ!

「むしろ嬉しかったですね!」と語る斎藤さん。
斎藤さんにとっては、酷評されたことよりも、ゲームの専門家である井上さんが「風呂」を知っていてくれていた喜びの方が勝っているのだ。

――斎藤さんは、いつ頃からゲームを作ってたんですか?
「15年くらい前に、友達からゲームが作れるツールがあるって聞いて、中学・高校ぐらいの時に色々と作ってたんです。例えば『肉ジャンプ』とか…」

――「肉ジャンプ!?」

●世紀を超えて隠れファンの多いゲーム「肉ジャンプ」

――「肉ジャンプ」って、何ですか?
「クリックすると肉がジャンプするゲームです。制限時間があるわけではなく、ジャンプさせると回数が表示されるだけです。他のプレイヤーと競うなんていうこともありません」

超シンプル!
それなのに、ちょっと変わった“オプション機能”があるという。

「肉の種類が選べるんです」

――肉が選べる!?
「牛肉とか鶏肉とか、あとは漫画に出てくるような大きな骨付き肉ですね。肉によって重さの違いがあって、ジャンプ力が違います」

短時間でたくさんジャンプさせたければ、重い肉(牛肉)にすればいいのである。
「あとは…」

――あとは??
「背景が選べます」

――背景が選べる????
「平原、砂漠、宇宙と選べます」

――なんのために(笑)???
「重力を変えてるんです。宇宙空間は重力が少ない設定なので、肉がものすごくジャンプします。肉の種類と背景(場所)の組み合わせで、ジャンプの仕方が変わるんです」

なるほど!
まさに至れり尽せりである!(←この表現が合ってるのかどうかはわからないけど)
短時間でたくさんジャンプさせたい方は、砂漠で重い肉をジャンプさせればいいというわけである。普通にジャンプするだけでなく、2段ジャンプもできるのでやってみよう。

さぁ、色々と分かったところで、これでキミも「肉ジャンプ王」だ!

――なんだか、意外と奥が深いですね~。
「別に、有名なゲームというわけではないのに、根強い人気がありまして、今でもたまに『何回跳びました』っていう“報告”のメールをいただくことがあるんです。中には『ヒマつぶしに会議中にやってます』っていう人もいて、それはそれで大丈夫なのかと、こっちが心配になりますけど(笑)」

実は、「肉ジャンプ」は1度開発して完成…ではなく、ちゃんとバージョンアップをさせたという。
「一時停止・リプレイ機能をつけたり、インターフェイスを変更したり、肉のグラフィックを洗練させたり…あとは幻の肉の存在も明らかにしました」※最終バージョンアップは2000年

気になるところがありすぎて頭の中が混乱してきたが、プレイしたい方は、この記事を読み終わってからやってみよう。

●斬新すぎるゲーム「テレビ殴り」

「あと、2年前にデジタル化されましたけど、昔『テレビ殴り』っていうゲームも作りましたよ」

――なんとなく予想はつきますけど(笑)、敢えてお聞きします。なんですかそれは?
「左フックと右ストレートで、ブラウン管のテレビを殴っていきます。最初は何も起きませんが、しばらくすると壊れてきます」

こちらも、特にスコアを競うわけではなく、壊れるだけである。ただ、最後にあるメッセージが出てくるところが肝。

――なぜ「テレビ殴り」を?
「今のテレビは薄型だし壊れにくいから叩く人はいないと思いますが、昔はテレビの調子が悪いと、叩いたり殴ったりしてたじゃないですか。あれって、修理してるんじゃなくて、周りから見ると破壊してるように見えると思うんですよ(笑)。そういう、モヤモヤした気持ちがあって、作りました」

目のつけどころが変わっているではないか!
確かに昔はよくテレビを叩いていた。

「色々なゲームを作っていたのは10年以上前ですが、私はこういう、訳のわからないものを作るのが好きなんです。自分でもなぜ訳のわからないものを作ってるのか、分かりませんけど(笑)」

とはいえ、本業は大阪にある某有名メーカーで、技術開発の仕事に携わっている理系の会社員だ。我々一般人から見ると、訳のわからないものを斎藤さんは扱っているのだ。(取材・文/やきそばかおる)


●「風呂」「肉ジャンプ」「テレビ殴り」をプレイしたい方はコチラのサイトで。(無料)
「ビジュアルベーシッ君」(斎藤さん制作)
http://www.nekopla.com/nnk/program/program.htm

※「windows用です。Win2000以降では正常に動作しない場合があります」とのこと。(98年~2000年頃に制作されたものなので…)